笑いあり、笑いあり、涙少しあり、笑いあり、の極上ホームドラマ。
良作の多い今クールのドラマの中でも秀逸な一品。
最近、マンガなど原作ありのドラマが多いなか、金子茂樹が脚本を書き下ろしたというから、期待して観た。
金子といえば、「俺の話は長い」、「コントが始まる」など、軽妙でヒネリの効いた会話でテンポよい人間ドラマが得意な脚本家。本作でもその天賦の歳を遺憾なく発揮。
金子ドラマらしく、一つ一つの会話やセリフがよく練られていて、それを確かな演者の軽妙な演技で魅せる。
そもそも「コタツがない家」とは、何を意味するのか?
物語をずっと見ていくと、中盤くらいであー、なるほどと感じ、最終話で答え合わせをやってくれる。
ウェディングプランナーで家事も仕事もバリバリこなす、スーパーウーマンの万里江を、民放地上波初主演の小池栄子が演じる。
その万里江とダメな男どもが同居する深堀家が舞台。
万里江の父・達男(小林薫)は、妻(高橋惠子)と定年離婚し、鬼怒川のスナックのママに入れ込んで放浪したあげく、深堀家に転がり込む。
クセの強い小林薫の名演で幕を開け、怒涛のように深堀家一家のドタバタが描かれていく。
かつてはそこそこ名の通った漫画家だったが、12年も書いていないぐーたら夫・悠作(吉岡秀隆)、口ばかり達者で身勝手な息子・順基(作間龍斗)。
みんなどうしようもないほどのダメ男たちばかり。
ダメな男3人を相手に大立ち回りを演じ、時には叱咤し、時には愛情豊かに見守る万里江を、小池栄子がとても魅力的に演じている。
優しくて、男気あり、賢く綺麗で、そして包容力にあふれている。
世の男からすると、なんとも完璧に見える万里江のもとに、なぜか集まるダメ男たち。
でも、万里江が完璧だからこそダメ男が頼りにするのだ。
石川さゆりの歌う主題歌(これも秀逸)の歌詞の通り、「ダメな男どもよ、みんな私の背中に乗りなさい!」ってのがぐっとくる。
深堀家のドタバタ劇を題材に、12年ぶりに漫画を描き始めた悠作だったが、途中で投げ出しながらも、最後には漫画を完結させる。
その原稿を最初に読んだ万里江が、つぶやく。
「深堀家はコタツがなくても、みんなが(仲良く)喧嘩する暖かい家庭なのだ」
本当にそうだと思う。
核家族化や、個人を尊重する風潮が強い昨今、本音でなんでも話してぶつかり、喧嘩してでもお互いを思いやる気持ちを持ちながら生きる家族というのは理想である。
そんな素敵な家庭をそのまま描くと、なんだか嘘くさい。
それをこんなコメディタッチでさらっと描ける金子茂樹は、本当にスマートだ。
一見、ダメな男どもが集まる深堀家だが、悠作は自分の信念で漫画を描く職人肌の男で決して本質的にダメではない。順基もまだ若く未熟ながらも心根は優しい。
一番アカンのは昭和のサラリーマンを絵にかいたような達男。
自分の考えに固執し、他者の意見はすべて否定してしまうのが得意な世代。
MATTもどっちかというとこの世代に近いので、気を付けないと。。。。。笑
ホラン千秋、中川大輔の若いカップルの結婚観や、万里江の会社で結婚式を挙げようとする富田望生、森優作カップルのエピソードは、万里江・悠作夫婦と対比して、結婚前後の男女の関係性をあぶり出している。
結婚したことのある人なら、結婚前と後でどうして男女の関係性はこんなにも変化するのか?と思うはずだ。近くなればなるほど遠くなっていくものが、そこにはある。
北村一輝は、歳を重ねた今のほうが色気がある。
このドラマでも、ちょくちょく出てくる編集者の土門もイケメン中年であり、セクシー。
彼のポジションはなかなか貴重だ。
あとほぼ無名だが、いい味を出していたのが芸人であり俳優、師島役の河野真也。
「俺の話は長い」や、「チャンネルはそのまま」にも出ていたようだが、あまり印象にのこっていなかった。だが、今回の師島役はセリフも多数あり、そのほっこりしたキャラで、今後活躍の場が増えるのでは、と思う。
家庭の暖かさはそこに住む家族の関係性がどれほど濃密か、ということを教えてくれた極上のホームドラマだったが、一方で日本はまだ、働く女性が輝くことができる社会ではないという現実も描かれていた気がする。
万里江のような女性もいるのだろうけど、日本ではまだ圧倒的マイノリティに違いない。
ダメな男たちの描写は、そのアンチテーゼなのかもしれない。
最後に、小池栄子はずっと色々なドラマで素晴らしい女優さんだと思って見てきた。
朝ドラの「マッサン」「リーガル・ハイ」「俺の話は長い」「美食探偵・明智五郎」「姉ちゃんの恋人」「競争の番人」と、どの役も心に残る。
このドラマの万里江は彼女以外考えられなかった。また彼女の主役ドラマを観たい。
小池栄子、素敵です。