たまやんお勧めでコレクションに入れていたが、144分という長編のため時間がある時に、と取ってあった。

今週は鼻かぜをひいてしまい、ずっと体調が悪く今日土曜日もゴルフ日和だったのに家でお休み。。。。観ることにした。

 

まだ映画監督としては若手といえる石井裕也監督作品。

尾野真千子、オダギリジョー、鶴見辰吾(二人ともちょい役)、永瀬正敏、嶋田久作、前田亜季、、泉澤祐希らに加え、若手でイチオシの片山友希が出演。

 

片山友希。この映画では儚い感じが魅力の彼女だが、演技の幅は広い。

 

監督が「生と死」を見つめ、強く意識するというだけあり、本作も生きることの苦しさやその意味を見つけようともがく人々を描いている。

 

日本は世界でも有数の先進国であるにもかかわらず、この30年で貧富の差が激しく開いてしまった。普通に働いて幸せと感じる生活ができない人の多い国が、果たして先進国なのだろうか。

そして、ルールに縛られ、ルールから少しでも逸脱すると激しくバッシングされる。

それらの因習は昔からの村社会の延長であり日本人の気質である。

そして真面目に、正直に生きようとする人たちほど、このルールによって苦しめられ、追い込まれていく。

 

夫が「上級国民により殺されてしまった」こと以外は普通の主婦を、尾野真千子が圧巻の演技力で魅せてくれる。

息子・純平役の和田庵との関係性は親子でありながら戦友のような絆で結ばれた関係性で、こういった親子関係っていいなと思って憧れる。そういった親子関係をナチュラルに演じることができるのも尾野の演技力のなせる技といえるだろう。

 

今観ている「東京貧困女子」でも触れられているが、真面目で正直な人ほど貧困から脱出することができない。ローン地獄にハマってしまう人たちと同じ図式だ。

 

尾野真千子演じる田中良子(この平凡極まりなく見える名前もミソだ)も、そういった真面目な女性だが、内に秘めた熱いものをいつも懸命に抑え込み生きている。

そういった人たちに対し、世間の目は異常に冷たい。

他者を思い遣ったり、気遣うという余裕のない社会。それが今の日本なのか。

 

良子と一緒に風俗店で働く若い女性・ケイを片山友希が好演している。

劇中ではオールヌードになり男に奉仕するという体当たりの演技。彼女は数々の作品で爪痕を残している。古川琴音と同じような路線の女優さんに見えるが、違うかもしれない。

楽しみな女優さんの一人。

 

耐えに耐えて来た良子も、中学の同級生だった男にいいように弄ばれていたのを知り、自暴自棄になり、男を殺そうとするが純平やケイ、風俗店店長の中村(永瀬正敏)に止められ事なきを得る。ここでの尾野の迫真の演技、それまで仏のように生きて来た女性が阿修羅のごとく豹変する様が素晴らしかった。

 

劇中、節目節目に良子が使ったお金の金額が表示される。

人によってはたかが〇〇円かもしれないが、彼女にとっては爪に火をともす生活の中で決して少ない金額ではない。

生きるためのお金に翻弄され、最低の生活も保障されずそれでも懸命に生きることに、何の意味があるのか。

中村が良子とケイに「生きる意味」について問うシーンがあった。

二人とも答えられない。それはそうだろう。

「生きる意味」とはを考える前に、彼女らは必死に生きることしか頭にないのだから。

 

ケイの突然の死と、その真実を中村から知らされた良子。彼女が良子と純平のためにとお金を残していたのを知り愕然とする。

そして、自暴自棄になって盗んだ自転車をこっそり返しに行く。

純平を荷台に乗せて、茜色の夕焼けに向かって走る良子。

ケイの死が、良子に生きる意味を教えたのかもしれない。