今クールのドラマは豊作だと思う。

チョイスしたドラマのほとんどが面白い。

それらの中で先陣を切って終幕したのが、菅野美穂主演の本作。

もともと松岡茉優が出ているので興味はあったものの、踏み切れないでいたが、ネットで面白いとの評判だったので観てみた。

 

漫画が原作で、介護、性的マイノリティ、不倫、貧困家庭、純愛など、かなりたくさんの要素を詰め込んでいるが、それらが破綻せず受け手に「いったいどうなってしまうんだろう」とワクワクさせる展開は、素晴らしい。

ドラマはそんな原作の良さを、最高のキャストで最大限に生かしていると思う。

 

菅野美穂のドラマは実は初めて(昔は日本のドラマはほとんど見なかった)。

日本のドラマ、映画界は40代以上の女性の主演が圧倒的に少ないらしい。

日本が「ロリコン化」している、といわれるゆえんかも。

 

現在日テレで放映中の「こたつがない家」の小池栄子もそうだが、40代女性がヒロインのドラマは、女の人生、生き方が味わい深く描かれ、素直に面白い。

菅野美穂は年を重ねていく自分の中にある乙女の心との、遠ざかっていく距離感に戸惑いながら生きているゆりあを、等身大の女性として生き生きと演じており、素晴らしい演技だった。

 

それからこのドラマ、女優陣のキャスティングと演技が秀逸。

それも子供から高齢者まで、幅広いレンジの女優さんの活躍ぶりが楽しめる。

 

小山田まにを演じる白山乃亜は、まだ11歳で東宝シンデレラのグランプリ。美少女ぶりから10年後が楽しみな子役。

小山田みちるを演じる、いわずもがなの実力派・松岡茉優。

彼女が主演でもない役でこのドラマに出たのは、原作漫画が好きでこの役がぜひやりたかったからだとか。

ゆりあの姉の泉川蘭は吉瀬美智子。時折登場するだけだが、キャラが立ちすぎていて困るほどの存在感。

女医役に志田未来。正直、志田未来の女医役は萌える設定・・・笑

嫌みな義姉役の伊沢志生里を演じるは、カメレオン女優の宮澤エマ。

「フェルマーの料理」ではまったく正反対の忠実な給仕長を演じていて、彼女の演技の幅には感服させられる。

そして伊沢節子役の三田佳子。こんなおばあちゃんになってしまったのか、、、と時の流れを感じずにはいられないが、かわいいおばあちゃんを好演している。

 

物語の主軸は、自分に正直に全力で生きる刺繍教室の先生であるゆりあの生きざま。

どんな苦難にもどんとこい、とばかりに立ち向かっていくその姿は、まさに昭和の肝っ玉母さんだが、昔と違うのは彼女も恋をする一人の乙女ということ。

自宅のリフォーム業者の若者・伴優弥(木戸大聖)との恋が瑞々しく展開される。

 

一方でもう一つの軸がゆりあの夫で小説家の吾良(田中哲司)の人生。

吾良は老若男女問わず、人を惹き付ける優しさを持った男として描かれている。

 

ドラマの冒頭、彼が脳卒中で倒れたことから物語が始まる。

吾良が倒れたことで、ゆりあの知らない彼の秘密が明るみになる。

ひとつは鈴鹿央士演じる稟久というゲイの青年との関係。

もうひとつは2人の娘を養いながら夜の商売をしているみちる(松岡茉優)との関係。

実は2つの関係で吾良は肉体関係はない。

ともに彼の極端ともいえる人間愛が、複雑な人間関係を構築させた。

 

寝たきりになった吾良の介護をするために、伊沢家に稟久とみちる一家が乗り込んでくることでカオスの状況が生み出され、物語が本格的に動いていく。

 

こんなカオスの状況をよく破綻させず、面白おかしく、時には涙と感動を織り交ぜながら見せることができるな、と毎回感心して観ていた。

 

状況は明らかに世間一般的に見たら異常で、収拾付かないように思えるのだが、そこに絶望感や悲壮感はなく、コミカルかつエネルギッシュに展開していくのは、ひとえに菅野美穂演じるゆりあが魅力的な女性だからだ。

常にすっぴんの心で、相手に対して自分に嘘をつかず(ついてもすぐに自白してしまう。。。)、一生懸命生きる姿に、色々なストレスで弱っている現代人は勇気づけられるのではないだろうか。

一つの愛にしか生きることができない、そんな真摯な姿に共感を覚える女性は多いのだと思う。優弥との愛ある別れのシーンは泣かせてくれる。

 

それにしてもそんな強く健気な女性に対し、優しいとはいえどこか頼りない吾良は、世の多くの男の代弁者なのだろうか。

物語の中盤で、寝たきりで意識不明だった吾良が突然起き上がるシーンがある。

その時に吾良が「みんながこの家で一緒に楽しそうに暮らしている姿を見ているのが本当に幸せだった」というような事を言い放つ。

これを聞いて、これっておそらく潜在的な男の本音だろうな、と。

男の多くはどこかで好きになった相手みんなと一緒に楽しく暮らせたら、どれだけパラダイスだろう、、、、と思っている。それはどこまでいってもファンタジーなのだが。

その具現化されたものが、いわゆる一夫多妻制のハーレムなのか。

この吾良の言葉こそ、ゆりあとの違い、すなわち男性と女性の本質的な違いを表しているのかもしれない。

 

最終回では、実家の旅館に戻った稟久を慮って会いに行った吾良が稟久と熱く抱擁する。一方で家をカフェに改造するためリフォーム業者を選ぶゆりあ。

敢えて優弥の会社を避けてランダムに選んだ業者が、実は独立した優弥の会社だったというオチ。ここでタイトルの「赤い糸」が回収される。

 

人はそれぞれが運命の赤い糸を持っているのかもしれない。

そうであるならば、その運命に抗わずに生きるのも人生。

たった一度しかない人生なのだから、誰に文句を言われることもなく、誰に気遣いすることもなく、自分の人生を生きればいい。

そんなメッセージを感じる最終回だった。

 

一風変わった世界観だが、心の枷が取れてスッキリするドラマが観たいなら、これという秀逸な一品だったと思う。おすすめのドラマだ。

 

新・旧の実力派女優の二人の共演は、さすがの演技でした。