たまやんが勧めてくれたので観てみた。

 

竹中直人監督作品として観るのはこれが初めてだ。

MATTの油絵を見て美術部に誘ってくれた高校時代の美術の先生が、竹中直人の友人だったことを思い出した。結局美術部には入らなかったが。。。。

 

浅野にいおの漫画が原作。

全編通してどことなく厭世観の漂う画面と雰囲気、モノローグで構成されるストーリーが、ビスタサイズの画面と相まってどこか80年代のフランス映画のような趣がある。

各シーンのカット割りや絵も結構凝っていて、竹中直人のセンスを感じる玄人好みする作品だ。

 

演じる斎藤工の色気ある低音ボイスも、痩せすぎの裸体が魅力の趣里のコケティッシュな可愛さも、更にフレンチっぽいムードを高めているようだ。

 

冒頭で斎藤工演じる漫画家の深沢薫の大学時代の恋役で、玉城ティナが出てくる。

変わらぬ美少女ぶりと、どこか人の心を見透かしたようなけだるい目が印象的。

独特なエロティックさもあり、物語の冒頭とエンディングのみの出演ながら、印象深い。

 

深澤は漫画を愛しているというより漫画しかない世界に生きている。

それも自分が良いと思える漫画のある世界しか、彼の中には存在していない。

だから、それ以外のものにはまったく興味がないのだ。

時代が変わっても自分以外の外部には感心が無いので、読者が求める漫画と自分が描く世界との間にGAPが生じ、それがどんどん広がっていくことで、孤独感と焦燥感を募らせ、次第に他者を遠ざけ心を閉ざしていく。

そんな彼を高校時代からの友人はもとより、玉城ティナ演じる猫顔の少女も見抜いており、更に少女は深澤の心をえぐるような一言、「化け物」という言葉で彼を表現する。

 

この映画、作品の中心にある「猫顔の女性」を強調するべく、猫っぽい女優を敢えて選んでいるのか。趣里しかり、MEGUMI、山下リオ、玉城ティナ。。。。

それぞれの女優さんがとても魅力的に役を演じており皆素晴らしい。

中でも山下リオは、深澤の「化け物」の部分をあぶり出す重要な役をしっかりと演じていて、さすがと感じた。

 

ちなみにクレジットに「孤独のグルメ」の久住昌之の名前があり、おや?と思った。

竹中直人とは長いつきあいの友人らしい。ただ、どこに出ていたかわからんかったが、、、、w

 

あと実家に帰った趣里演じるちふゆが父親から借りて来た古い国産車が、初代日産レパードTR-Xだったのは、車好きにはたまらない。こういった小道具にも気を遣う監督は好きだ。

 

作中、様々なシーンで深澤の絶望的な孤独感が見られるがしかし、それらは本当の絶望ではなかった。

売れる漫画を描くことで「零落」した自分から抜け出そうとした深澤は果たして、また売れっ子漫画家に返り咲きサイン会を開くことになる。

そこで出会ったのはずっと長く彼をSNSで応援してくれていた女性。

彼女は彼の最新作を読み、生きる勇気を与えられたと涙を流して感謝する。

その姿に深澤は、どうしようもない絶望感を抱き彼もまた涙する。

これこそ、もっとも残酷な絶望的瞬間だった。

彼は結局、彼自身の信じる漫画とその世界を、誰にも受け入れてもらえないということを突き付けられたのだ。。。。

 

竹中直人の監督としてのセンス、斎藤工と趣里という確かな演者によって、作品の持つテーマがリアルに描かれていたという点で、とてもよい映画だったと思う。

 

趣里の佇まいとどことなくエロティックな雰囲気は、フランス女優っぽくてナイスキャスト。

現在「ブギウギ」「東京貧困女子」と主演で活躍中。

いつかは主役を張る女優さんになると思っていたが、やっと花開いた。