大岡昇平の1978年のベストセラーが原作。

これまでも何度も映像化されている作品。

1978年の映画版では菊池弁護士役を丹波哲郎が、NHKのドラマ版を若山富三郎が、1993年のテレビ朝日版では北大路欣也が、とそうそうたる顔ぶれ。

今回のWOWOW版は、椎名桔平が演じている。

 

葉津子を演じるMATT一押しの北香那は、物語の始まりですでに死体になっている。。。。無念。ただ、その後回想シーンで何度か登場し、さすがの演技で存分に泣かせてくれる。

葉津子を殺した容疑者として逮捕される青年・上田宏に望月歩。こういった優しい男は最近、彼にという配役が多い気がする。

 

全4話でほとんどが法廷シーン。原作が冤罪をテーマに法廷内での審理を緻密に描いた作品ゆえ、謎解きや劇的な裁判の逆転劇ではなく、人間の心の内の葛藤や、細かな心理描写、検察と弁護側の駆け引きなどに焦点が当てられている。

 

椎名桔平は若い頃からかっこいい役者というのがMATTの認識。

年を重ねても彼の持っている独特のシャープさは失われていない。

血も通わぬヤクザから、実直な弁護士までスマートかつ熱く演じることができる、いい役者さんだ。本作でも先輩判事の谷本(永島敏行)から、「潔白な男」と評される、元判事の菊池弁護士というキャラクターを丁寧に演じていて好感が持てる。

 

その永島敏行だが、1978年の映画版で上田宏役を演じている。

今回は自身が演じた上田宏を裁く、という配役が心憎い。

 

高島政宏も好きな役者だ。「刑事7人」も、彼と倉科カナが降板してから見るのを辞めたくらい。重厚な演技も軽い演技もできる役者で、歳を重ねてより存在感が出てきている。

 

ふせえり、いしのようこらベテラン女優に、入山法子、仁村紗和と若手個性派が並ぶ。

入山法子のエリート検事役ははまっていた。仁村紗和はもう少し出番が欲しいかな。

 

1978年当時は、まだ自白頼みの捜査が主流だった。このため80年くらいまでは冤罪事件がものすごく多い印象だ。貧しい人、弱い立場の人や、差別を受けて生きてきた人たちが無実の罪を着せられ、法の裁きのもと、社会的に抹殺されるといったことが多々あったのだろう。大岡昇平はそんな世の中に、裁判のあるべき姿、人間の尊厳などを問うたのかもしれない。

 

現代社会ではさすがに科学捜査も進化し、かつてのような冤罪も発生しにくくなっているのは間違いない。ただ、劇中にもあったように一年で何万件もの犯罪を検挙し、裁かないといけない警察・検察の現場では、いかにタイパ・コスパを意識して処理して行くかということに執心せざるを得ない。

そこから間違いや冤罪が起こらないと誰が言えよう。

 

それから原作はネットも無かった1970年代が舞台だが、このドラマは現代が舞台。

犯罪で検挙されて、仮に無罪となってもネット上には拡散された個人情報が永遠に残る。やり直したくとも、世間の目がそれを許さない。なんとも生きづらい時代だろうか。

 

劇中で過去、谷本判事が菊池弁護士に贈った「人間は間違える」という言葉を、菊池弁護士が最終弁論で熱く語る。誰しも間違えるからこそ、許し、認め合い、受け入れないといけない。そして裁判制度もまた、間違いはあってはならないのだが、それを完璧に防ぐことはできない、なぜなら人間が裁くのだから、、、ということか。

実に深いテーマである。

 

劇中の葉津子の人生は過酷で壮絶だ。

あまりに薄幸な人生を演じた北香那の演技力が光った。彼女、やっぱりいい女優さんである。

 

最終話、葉津子の切ない恋心に涙してしまう。。。。。