山本周五郎の原作をもとに、宮藤官九郎が現代劇にリニューアルした意欲作。

良い原作、良い脚本に、池松壮壱、仲野太賀、渡辺大知、濱田岳という主演級の名優をそろえ、更に個性あふれる女優陣や、名バイプレイヤー勢ぞろいとなれば、面白くないほうがおかしい。

 

「季節のない街」は黒澤明が名作「どですかでん」で映像化しているが、現代において災害復興住宅を舞台にしたあたり、宮藤官九郎の慧眼が光る。

 

半助=新助(池松壮壱)がとある仮設住宅にやってくるところから物語は始まる。

宮藤脚本らしい、ちょっと訳ありの人物に依頼されて何が始まるのか、とワクワクさせられる。

そこに仮設内を電車ごっこよろしく走り回る六ちゃん(濱田岳)、なれなれしいが熱い男・タツヤ(仲野太賀)、お人よしのオカベらが登場し、貧しいながらもたくましく生きる住民たちが絡んできて、様々なハプニングが展開される。

 

1話25分なので小気味よく話が進み、それぞれの話もピリリとスパイスが効いていて、毎回心に刺さるエピソード。

 

人々は「あの波」によって、それまでの生活を奪われてすべてを失い、仮設住宅にやってきた。生活は貧しいながらもお互いに支え合い、分け合う明るく前向きなものだった。

その仮設住宅に忍び寄る陰。新たな公営住宅への移住を条件に立ち退きを迫られ、一人、また一人と去っていく。

自然の猛威によって生活を奪われた人たちは、今度は国の都合でまた今ある生活を奪われていく。

そんな不条理を、宮藤カン流に笑いを随所に交えつつ痛切に批判している。

 

一つ一つのエピソードは実に味わい深く、含蓄にあふれている。

山本周五郎の原作すら読んでいない、学の無いMATTにはそれが原作によるものか、宮藤脚本によるものかはわからないが、そこには普遍的な真実がある。

 

かつ子(三浦透子)は8話までまったくセリフが無い。地味で実の母親(小田茜)からつけられたあだ名は「つぶれたがんもどき」。

そんな彼女だが、さすが後半は物語の中心にやってきて、最後の最後に締めてくれる。

地味な娘が最終話で、綺麗なアパレルショップ店員に昇華するシーンは見もの。

 

ミュージシャンの渡辺大知と歌手活動もしている三浦透子の、このシーンは見もの。

きれいなハモリで泉谷しげるの「春夏秋冬」を歌う。

今更だけど「春夏秋冬」の出だしが♪季節のない街に生まれ~ だと気づく。。。。

 

みさお役の前田敦子は最近注目している。出番は少なかったが、元ご当地アイドルであばずれ役、というなかなかハードな役を演じていた。

ご当地アイドルネタを差し込んでくるあたりが憎い。そういえばBGMも「あまちゃん」風だ。

 

MEGUMIは最近母親役が多いのだが、今回も人妻役でセクシーなシーンもありなかなかよい。やっぱ元グラビアアイドルの色気は健在。

 

藤井隆の怪しいデベロッパー振りは素晴らしい。

人間は多面的な生き物である、という定義をそのまま演じることができるのが彼のいいところ。実に人間臭いのがいい。

 

半助の元カノ役の佐津川愛美は、MATTの中では「男が理想とする可愛い女性」を平均化した女優さん。なので、今回のようにファー付きの白のコートに黒タイツ、というほぼ100%男性が喜ぶ衣装を完璧に着こなし、可愛い彼女ぶりを発揮している。

好きな女優さんの一人である。

 

佐津川愛実。

白コートに黒タイツなんてベタな衣装が似合いすぎてドキドキする。。。。

 

鶴見慎吾(最近、クソ役ばかり。。。)、岩松了(この人もクソ役やったら最高)、荒川良々、奥野瑛太(好きだわ、この人)、塚地武雄(下手な役者より上手いし味がある)、又吉直樹の男優陣に加え、LiLiCo、片桐はいり、高橋メアリージュン、坂井真紀、広岡由里子らの女優陣が脇をしっかり固めている。

あと、皆川猿時のネコの擬人化は最高。彼、こんないい役者だったのか。。。笑

 

ベンガル演じる丹波さんは、宮藤官九郎のメッセージを語る役なのだろうか。

最後に丹波さんは認知症を患っていた、という伏線回収も見事。

その丹波さん、劇中、心に残るセリフをたびたび語っていた。

 

今では貧乏から脱して社長夫人になった小田茜演じるかつ子の母親を、仮設の人々が嫌うどころか憧れるのは、自分たちと同じ出自の彼女が成功しているのを見て、自分を重ね合わせるからだとか、かつ子のことを「つぶれたがんもどき」と例えたのも、かつての貧かった自分を重ね合わせ嫌悪感を口に出したのだ、とか。

 

自殺未遂を図ったタツヤに「お前が死んだら、お前の記憶の中にいるお父さんも死ぬんだ。お前が生きている限り、お父さんは生き続けるんだよ」とか。

 

池松壮亮、仲野太賀、渡辺大知という名演者が3人も出てきて共演するなんて、本当に贅沢な作品だが、それに加えて素晴らしい原作・脚本・監督により誰にでも楽しめる作品となっていると思う。

 

オカベがかつ子にプレゼントする服を探すため、半助に着せるシーン。

池松壮亮の女装といえば「MOZU」での暗殺者・新谷和彦役を思い出す。

 

ラストで半助が仮設での生活を小説にして売り込むシーン。

前原滉演じる編集者が「私は個人的に好きですが、女性蔑視とかコンプライアンスがねえ、、、」と言って去っていく。

 

本作品、民放では採用されず、唯一Disney+が拾ってくれたそう。

何かとすぐにコンプライアンスや倫理、という物差しで測り、本当に言いたいことは言えずふたをされて見てみぬふりをさせられる。

真実に向き合うことができない社会が閉塞感を増長する。

肩の力を抜いて真の復興とは、人間の幸せとは、ということを考えさせてくれるのがこの作品の素晴らしいところだろう。