むう、まったくもって迂闊であった。

夏ドラマのNo1は「初恋、ざらり」であったことは間違いないが、このドラマはそれに匹敵する秀作だった。

 

本放送時には観覧ドラマ数が多すぎたので、後で観ようととっておいたのだが、こんなに秀逸なサスペンスドラマだったとは、、、、、

 

ストーリー展開は桐野夏生の名作「OUT」を髣髴させる。

平凡に暮らす女性たちが、思わぬ展開から人生の闇に落ち犯罪に手を染めていく。

そのスリリングさは、「OUT」を思い出させた。

 

よくできた原作にプロット、そして意外性のあるキャスティングとすべてにおいて成功している。

 

主演は繭美役の深川麻衣。彼女のドラマで唯一観たのが「まだ結婚できない男」だった。だが、名作「結婚できない男」に比べストーリーも演者もイマイチで、深川麻衣もついつい国仲涼子と比べてしまい、全然印象に残らなかった。

しかし、このドラマでの彼女は一見華やかな存在の陰に、他人の目を気にしすぎる自分に自信を持てない弱い心を持った女性を好演している。

 

由香里役の前田敦子は親に捨てられたうえ「無戸籍」という同情を誘う役。他者に存在を認められない悲しい人生を生きて来た女性、という難しい役だったがそれを自然にこなしていたのには驚いた。いい女優さんになったと思う。

 

そしてMATTがずっと推している理子役の石井杏奈。25歳の若さだが彼女の感情表現の豊かさには底知れぬセンスを感じる。このドラマでは心に何か深い闇を抱えるミステリアスな存在でありシングルマザーというこれまた難しい役を、彼女らしく演じている。

 

この魅力的な3人の女優に加えて、翠役のさとうほなみがまたいいスパイスで絡む。

自殺願望を抱く女性役は、アンニュイなムードがぴったりの彼女が演じることで、このドラマのストーリーにリアリティを与えている。

 

また男優陣も個性派ぞろいだ。

 

キーになるクソ男(笑)の智明に毎熊克哉。これまでヤサ男役の多かった彼だが、今回はほんとうにドが付くほどのクソ男役。それを冒頭からラストまで見事に演じ切った。

彼の存在のおかげで女優陣の悲哀が際立ったからだ。

最近活躍が著しいが、徹底的に役作りができる好きな役者さんの一人だ。

 

それから理子のバディの刑事・上原を演じるのは野間口徹。

彼はもう一流の仲間入りをしているが、特にこのドラマでは脇役に終わらずかなりの存在感を見せている。優秀で人情味あふれる昔ながらの刑事で、刑事としてではなく一人の人間として理子を守ろうとする姿に感動しきり。

 

展開はタイムラインが前後するやや複雑な構成になっているが、その中に伏線もしっかり張られていて、かつ小気味よい演出で飽きさせずどんどん次の話が観たくなる。

それぞれのエピソードや分岐点も無理・無駄がなく自然だ。

 

また、盛り込まれる背景も、女同士の友情・愛情、不倫、親子の愛、自殺願望、育児放棄、なりすまし、などさまざまなテーマにあふれているが破綻はしていない。

むしろ、それぞれのテーマがよいスパイスになり、ストーリーに厚みを持たせている。

 

最終回にすべての謎が明らかになるが、かなり早い段階で理子の繭美に対する愛の存在が匂わされていながらも、ラスト近くの繭美、由香里、理子と智明との対峙は迫力に満ち溢れ、涙も禁じ得ない素晴らしいシーンであった。

3人の女優と男優の魂のぶつかり合いにあっぱれである。

 

キャスティングは本当に色々なサプライズがあり楽しめたが、更に一つ上げるとするとこのドラマのもう一人のキーマンでもある南沢奈央だ。

MATTの中では永遠の美少女なのだが、彼女ももう33歳。

これまで気の強い役などあったものの、基本お嬢様が多かった気がするが、今回ははすっぱなキャラで意外な配役に驚いた。こういう役もやれるんだ、と。

 

欲しても手に入れられなかった幸せを求めて、犯罪に手を染めた3人の女。

だが、その結末は果たして幸せとは程遠い現実だった。

唯一の救いは、独り残された理子の息子・大輔がラストで翠によって引き取られていくシーン。

暗に理子はもうこの世にいないことを示唆しているが、悲しいながらもホッとするシーンである。

 

4人の女優さんの体を張った演技にどんどん吸い込まれていき、ドラマの世界に没頭できた。

脚本の田辺茂範は、数々の良品を手掛けているようで彼の脚本の力によるところもあるのかもしれない。

 

良質のサスペンス・ヒューマンドラマを観たいならイチオシの作品であることは間違いない。

ちなみにオープニングカットはスタイリッシュで素敵。

 

演じた4人の女優さんはみんな素晴らしい演技で株を上げたと思うけど、石井杏奈の理子は絶品でした。