「3年A組-今から皆さんは、人質です-」のプロデューサーと監督による話題作。

 

菅田将暉の熱演と、今活躍している数々の若手女優を輩出した「3年A組」に比べ、出演者などは小粒な感もあるものの、何より二人の女優、松岡茉優と芦田愛菜の共演は見ごたえ抜群であった。

 

松岡茉優は20代の女優さんの中で、今、もっとも注目すべき演者だろう。

「万引き家族」、「騙し絵の牙」、「初恋の悪魔」、「フェンス」、そして本作とその躍進はすさまじい。松岡演じる九条里奈の語る一言一言が、心に刺さるのは彼女のまっすぐな眼差しと、言葉に命を吹き込むかのようなせりふ回しのせいなのか。

小さな体で、どんな役でも常に全身で喜びも怒りも表現するエネルギッシュさは、彼女の魅力に違いない。

 

一方、子役で名を馳せた芦田愛菜は本作で久しぶりに連ドラ出演。

残念なことに途中で非業の死を遂げてしまい、全10話のうち彼女の出演時間は意外に短いのだが、それなのに芦田愛菜の印象が強烈なのは、さすがと言えよう。

 

ネットでも話題になった、物語序盤での5分に及ぶ泣きながら立ち上がる決心をする演技、中盤でのビデオメッセージでこちらも泣きながら九条里奈に思いを伝える演技。

その他、イジメられるシーンも友達にありがとうを伝えるシーンも、どれをとっても感情の発露がはんぱなく生命力に満ち溢れている。

あの「mother」の頃の5歳の芦田愛菜は、19歳になった今もあの頃の感情表現をそのままに、女優として立派に成長した。

 

芦田愛菜出演、というだけで観たくなる。

彼女はそんなプレミアムな女優なのだ。末恐ろしい。

 

2人の若い女優のあまりに凄まじい演技の質を見るにつけ、これは共演者も気の毒だと思うのだが、そんな二人に負けない演技で応えていた。

 

特に九条里奈の夫・蓮を演じた松下洸平は全編を通じて、妻をしっかり支えるよき夫を好演。永遠の少年のような青臭さを持つ彼ならでは。

 

教頭役の荒川良々や里奈の親友役の森田望智、サーヤらが脇を固め、

芦田愛菜演じる鵜久森の母親役の吉田羊の確かな演技はさすが。

生徒役では、やはり當間あみが難しい役を印象的に演じたという意味で、一つ抜けた存在だが、彼女の友人役の藤崎ゆみあも、まだほぼ無名ながらなかなか良い。

 

芦田愛菜と同じく子役で名を馳せた加藤清史郎は、金持ちの悪でいじめのリーダーというステロタイプの役ながら、弱い自分を大きく見せるために必死だった、という複雑な心の内面を見事に表現していた。

九条里奈にどんどん心を丸裸にされていく過程で見せた動揺と、何かに怒りをぶつけないと壊れてしまうような心持ちを、しっかり好演していて魅せてくれた。

 

奥平大兼は、長澤まさみ主演の映画「MOTHER マザー」で演技経験無いのにメインキャストに抜擢された才能豊かな俳優。このドラマでもかなり精神的にサイコパスな生徒を演じていたが、彼はこういうちょっと道から外れた役が多いので、普通の役が回ってこなくなるのではないか、と心配。

 

いじめ問題に光を当て、イジメられる側、イジメる側双方の視点、感情もしっかり描いている。そのうえでイジメの本質を抉り出し、演者それぞれに語らせる。

それを九条里奈が爽快といえる口調でばっさりと切っていく。

そこに迷いも躊躇もない。

悪いものは悪い、良いものは良い。

閉塞感で息が詰まりそうな中、本当のことを言う難しさ、それを受け入れる心の寛容さ。

 

様々な想いと感情に翻弄されながら、必死に生きる九条と鵜久森に生徒たちはだんだん閉ざされた心を開いていく。

 

犯人捜しがドラマの展開の一つの軸となっているのだが、九条里奈と生徒たちの心と心のぶつかり合いがこのドラマの本当の見どころだ。

タイムリープもサスペンス要素もそれらを支える手段に過ぎない。

3年D組の教師と生徒がどう生きたか、それがこのドラマで見て感じるべき本質なのだ。