池井戸潤の人の魂を揺さぶる筆致は、本当にすごい。

ずっとこの人は元銀行マンの知見を活かした金融・ビジネスノンフィクションの大家と思っていたが、もともとミステリー・サスペンス小説でデビューし、その筋を目指していたのだと知って、このハヤブサ消防団の面白さは、すんなり受け入れることができた。

MATTのルーツ(母親の故郷)でもある、岐阜出身というのも親近感がわく。

 

たまやんと「岐阜弁が変だ」と突っ込んだりもしていたが、それはおいておいて、中村倫也はやはりいい役者さんだ。

彼の持つ雰囲気と声、とてもいい。

一度彼に金田一耕助をやってもらいたい。

かなり原作のイメージにも近いと思うし、彼ならやれると思う。

 

川口春奈は「気になる女優さん」で書いた通り、彼女の魅力はミステリアスな雰囲気とともにある。ぜひ、今後も定期的にこういった役をやってもらいたい。

若いのに、内面からあふれてくるような妖しい色気を持っている点で、同世代の女優さんには無いアドバンテージがあると思う。

 

しかしこのドラマ、ヒロインの川口春奈、そしてキーになる小林涼子の二人の美女以外は、ほとんどオッサンしか出てこない。

それも、生瀬勝久、岡部たかし、橋本じゅん、梶原善となんともクセモノばかり。

満島真之介もこの4人を前にすると圧倒されてしまう。

くわえて、麿赤児に金田明夫、大和田獏、おかやまはじめなどオッサンオンパレード。

山あいの過疎の村が舞台だから仕方ないのだけど。

 

ちょい役で金澤美穂が出ているが、彼女、もっとドラマで使ってほしいのだけど。。。

 

「サンクチュアリ」で一気に有名になった一ノ瀬ワタルは、なんと一話でいなくなってしまう。

それでも十分存在感を残したが。

 

テーマは新興の狂信的宗教団体による過疎の村の侵略だが、果たして今の若い人たちはこのドラマ・小説から何を感じたろうか。

MATTの娘は1990年代の終わりに生まれた。

つまりはあの日本中を恐怖に陥れた「オウム事件」を知らない世代だ。

あの恐怖を肌で感じた世代には、このドラマはずどんと突き刺さる。

 

加えてMATTのように母親の実家が岐阜の田舎だったので、そこがああいった集団に乗っ取られてしまう恐怖というのもまた身近に感じる。

十分にあり得ることなのだ。

 

物語は、村に伝わるおどろおどろしい過去の謎をベースに、中村倫也扮するミステリ作家の三馬が、その謎と裏に潜むもっと恐ろしい何かを明らかにしていくというストーリーだが、その謎の引っ張り方がさすがうまい。

 

様々なヒントを残しつつも、核心に触れそうで触れない、巧みな焦らしで最終話までワクワクしながら見ることができた。

 

またそこは池井戸潤、シリアスにしてもよかったのかもしれないが、ハヤブサ消防団のオッサンズによるコメディタッチを織り交ぜながら、重くなり過ぎない工夫もされている。

更に山本耕史演じる編集者の中山田が、更に物語をソフトにしている。

彼は実にこういった外連味のある役を演じるのが上手い。

中山田のキャラは、山本のアドリブが入っているとしたら素晴らしい。

ちなみに劇中で加山雄三のモノマネをしていたが、めちゃくちゃ似ていて笑ってしまう。

 

新興宗教団体・アビゲイルの狂信的信者役の古川雄大もいいが、教団弁護士で陰のリーダーである杉森役の浜田信也の演技・雰囲気がかなりよい。

最終話での中村倫也との対決シーンは見ごたえあった。

wilkipediaが無い役者さんなので、出自など不明だが独特の雰囲気を持っており、今後色々なドラマで観ることができるかもしれない。

 

中村倫也のように田舎暮らしをする人が増えてきていると思うけど、田舎は思っているほど暮らしやすいところではない。

それも人との関わり方をどうするかに左右される。

三馬ももともとこの地区の人間だったのですんなり受け入れられたはず。

余所者にはなかなか心を開いてくれないのが、田舎の気質だ。

でも裏を返せば、そこを何とかすれば楽しく暮らせていくのかもしれない。

要は簡単ではない、ということだ。