今年の夏ドラマの中でも、良質な一品といえる。
何を持っても、このドラマは伊藤沙莉と織田裕二による絶妙な演技につきる。
伊藤沙莉は、若いのに本当にすごい女優さん。
誰と共演しても、ぴったりと相手に合わせてくる。でも自分の良さは殺さない。
自分も生きて相手も生かす。そんな稀有な才能をもった女優さん。
なので、このドラマでもあの主演しかやらなかった織田裕二が、敢えて共演に回っても、彼を立てつつ自分の演技もしっかりしていた。
織田裕二も、これまで見せなかったコミカルな役を、実にナチュラルに演じてさすが大物の存在感を見せつけている。
彼については1989年のNHKドラマ「一九歳」で彼を初めて見て、すごい役者が出て来たと感動した。その後どんどん人気が出て行った。50代を過ぎて次のステージに行きあぐねていた感があったが、このドラマの小原役は彼の役者人生のターニングポイントになるかもしれない。それだけ良い演技をしていた。
実力者の二人がしっかりドラマを動かし、それをまた個性的な脇役が支える。
それにしても、勝村政信、渡辺いっけい、菅原大吉、モロ師岡、六角精児など、よくもまあこんなクセモノを集めたなと感心する。
笠松将やファーストサマーウイカなど若手の配役もよい。
中島健人が演じる栗橋も、彼のほんわかした雰囲気に良くマッチしていて素晴らしい。
板谷由香や宮崎美子ら熟女(?)も好演。
このドラマもいわゆる最近はやりの職業モノだが、情に流されない脚本に確かな演者で、職業モノの中では出色のドラマだ。
「執行官」という聞きなれない職業にスポットを当てて、彼らの仕事ぶりをわかりやすく説明しながら、その重要性と実務の苦悩を際立たせ、毎回ユニークなエピソードで楽しめる。
各エピソードでは、四話のさとうほなみ、六話のでんでん/毎田暖乃、七話の浪岡一喜の話がよかったかな。「妻小」の毎田暖乃はたった一年で大きくなっていてびっくり。
この子、きっと将来綺麗になると思うのだけど。
でも最終話、佐津川愛美と福士誠治の夫婦の話が一番よかった。
この二人、地味ながらも演技のうまい二人で、一時間のドラマの中でこれだけ魅せる演技をできるのは、やはり実力あるからなのだと感心しきり。
大好きな「透明なゆりかご」の最終話、鈴木杏と金井勇太夫婦の名演を思い出した。
執行官は裁判所の命に従い強制執行を行うのだが、それは他人の人生を強制的に変えることになる。
自らの仕事を完遂することが法を守るということなのだが、当然人間のやることなので、心が折れることもある。
そんなセンシティブな職業を、織田裕二は丁寧に表現していた。
役作りに定評ある彼だからこそだ。
伊藤沙莉もそんなハードボイルドだが、ちょっと憎めない可愛いおじさんを翻弄する小悪魔的な魅力を見せながら、コミカルな演技で華を添えている。
最後に、八話で主演を務めた幸澤沙良はまだ17歳だが注目の女優さん。
初めて見たけどしっかりした演技をする、目が綺麗な子。
将来が楽しみ。