この作品はできればドラマ版で観たかった。

重松清の描く親子の深い愛の物語は2時間ちょっとでは、少々物足りないだろう。

だが、瀬々敬久という確かな実力を持った監督のおかげで、凝縮されたエッセンスで十分に感動できる作品になっている。

 

2012年のNHK版では主人公の安男を、堤真一。2013年のTBS版では内野聖陽が演じているが、どちらも安男という荒々しくも不器用で根はやさしい一人の男を演じるには適任だろう。

 

一方で、今回の映画では阿部寛だったが悪くはないものの阿部ちゃんではないなあ、、、という気もした。

阿部寛は大好きな役者さんだが、こういうかっこ悪さを見せるのを厭わない男くさい役には、何か足りない気がするのだ。

堤真一はその点、安男のような役をやったら、おそらくしっかり泣かせてくれると思う。

 

もちろん、阿部寛がだめだったわけではない。素晴らしい演技だった。さすがだ。

でも、個人的にはこの役は堤真一か内野聖陽のほうがいいのではないかな、、、と感じた。

阿部寛は今出ている「VIVANT」での公安刑事役が素晴らしい。

特に物語冒頭の砂漠のシーンなどは、彼のスケールの大きい演技力を堪能できる。

そういう役の方が向いているのかもしれない。

 

瀬々敬久が監督だったからなのか、木竜麻衣がたえ子(薬師丸ひろ子)の娘・泰子役で出演。出番もセリフも少なかったが、昭和顔の彼女にはぴったりの役だった。

仲野太賀と熱愛?中の木竜麻衣。土村芳と並んでもっと活躍してほしい女優さん。

 

もう一人、注目の若手女優では田辺桃子が、安男の息子の北村匠海の娘役で出演。

美形で演技力豊かな彼女はもっと活躍の場があると思う。

 

昭和37年から、昭和64年~平成元年、そして令和元年へと時代は変わっていくが、安男とその息子の旭を取り巻く人々との、心温まる関係・交流は何も変わらない。

懸命に生きる親子を、周囲の人たちは暖かく見守り、迎え入れてくれる。

古き良き時代、それは日本でも海外でも変わらないのだろうが、子供を大人が、社会がみんなで見守っていた時代があったが、この映画の旭もそんな周りの大人の優しさに包まれて育ったのだろう。

 

ラストシーンで杏演じる由美の息子役の井之脇海が、安男の葬式の用意の際にポツリとつぶやく。「おじいちゃんは幸せだったのかな」と。

家族は息子の旭と二人きりだったかもしれないが、彼にはたくさんの暖かい家族のような友人がいたのだ。幸せでないはずがない。

 

素晴らしい原作に監督、そして役者がそろってこの映画がある。

ほろりとくるシーンは多々あったが、ラスト近く旭と由美が備後の町に帰って来て、たえ子の小料理屋に来る。そこで安男と再会するが、安男はいまだにバツイチ子持ちで旭より年上の由美に対してどう接していいかわからない(昭和はそういう時代だった)。

 

そんな安男の背中を押すべく、安田顕演じる照雲が一芝居打って安男の口から本心を引き出すシーン。薬師丸ひろ子、大島優子らも加わり、確かな役者の息の合った演技でぐっとお涙頂戴を確実にしてくれた、この映画のクライマックスとでも言える名場面だと思う。

 

安田顕は最近、父親役をやることが多く素晴らしい演技で魅せる。

「しもべえ」での白石聖の父親役、今放映中の「18/40 二人なら夢も恋も」での福原遥の父親役。どちらも泣かせる。娘のいる父親の心の琴線に響く演技に、光石研と並んで、父親役といえばこの人、という存在になっている。

 

MATTも今年で54。

この年になってくると仕事も大事だが、それ以上に人生どう生きてきて、幸せだったか?そしてこの後の人生どう生きるか、をすごく考える。

今回の映画は、人と人の関わり合い、親子の絆、人生をどれだけ一生懸命生きるか、、、とそんなことを考えさせてくれる良作だった。