これはネットで面白いと評判だったので見てみた。

実は相撲大好きで、20代~30代の頃は熱心にNHKの大相撲中継やテレ朝の大相撲ダイジェストを見ていた(銅谷志郎アナが懐かしい・・・)。

 

相撲のだいご味は、あの立ち合いから一瞬で勝負が決まるスリルだろう。

ゆったりと土俵に入り見合うまでの静の時間、そしてその後始まる動の時間。

この2つの異なる時間のハーモニーがたまらない。

今回、このドラマを観てまた久しぶりに相撲が見たくなった。

 

主演の一ノ瀬ワタルはほぼ無名だと思うが、MATTは「アンナチュラル」第8話で、非常に印象深いヤサグレた息子の役を演じていた彼を覚えていた。

鍛えられた肉体の彼だったが、彼含むすべての力士役が1年かけて体づくりを行ったということで、劇中の一ノ瀬は、見事な力士体形となっていてほんと驚いた。

 

それだけリアリティにこだわった本作品。

NETFLIXクオリティで、映像も脚本も素晴らしいできだ。

 

全8話のうちほぼすべてにおいて、一ノ瀬演じる猿桜の破天荒な生き方がフォーカスされて、物語は進んでいく。

猿桜を見ていて往年の相撲ファンは、千代大海を思い出したろう。

あのふてぶてしい風貌、やんちゃな感じ、まさにモデルは彼しかいないと思わせる。

 

そして猿桜と対を成すかのようにライバルとして現れる、巨漢力士・静内。

小錦を思い出す、見事な巨漢アンコ型力士だ。

怪物感が半端なく、猿桜との初顔合わせの迫力はすさまじい。

さすが、元力士だけあって立ち合いの時の鬼の形相は、本物だ。

 

猿桜の破天荒な生き方中心だったストーリーは、その後この静内との取り組みによって猿桜が大けがを負ったところから、二人の力士の過去が対比されていく。

 

二人は北九州・門司と北海道・羅臼で、それぞれ貧しい生活を送り、やがて相撲界に入ってくる。

この二人が最終8話で再度、相まみえるシーンはこの二人が背負ってきた壮絶な人生がフラッシュバックされ、万感の想いが交錯する感動のシーンである。見事なまでの立ち合いから体をぶつけあうところで物語は終わるが、それは二人の勝ち負けは二の次であり、それよりも彼らが人生を相撲に懸けて来た、その事実こそが美しいということを物語っている。

 

ただひたすら孤独に四股を踏み、てっぽうを打つ。

孤独に耐えて耐え忍び、土俵に上がるとそこでも彼らは孤独だった。

そんな相撲の世界観が色濃く描かれていて、印象的だった。

世界に向けて発信され、かなり良い評価だったようだが海外の人たちこの世界観が伝わっただろうか。

一方で、冒頭からのシーンはかわいがりや、旧態依然の子弟関係など相撲界の負の部分がかなり露骨に描かれていて、こちらもまたリアリティがすごい。

 

忽那汐里がヒロインで出ているが、彼女はまだ若いし得意の英語も生かす役でまだまだ活躍の機会がありそうだ。

 

染谷将太が相変わらず上手い役作りで好演。

岸谷五朗、松尾スズキ、中尾彬、田口トモロヲに北見敏之といったベテラン俳優陣に加え、帰ってきたピエール瀧が個人的には嬉しい。

彼の役者としての才能は、あのような事件でついえてしまうのはもったいない。

今度はしっかり役者として生きていってほしい。

ピエール瀧。

良い顔、悪い顔、両方併せ持った人間臭い親方をこのドラマでは演じている。

そのキレが素晴らしい。

 

きたろうのくたびれた父親役もなかなかだった。

 

女優陣は仙道敦子よりも小雪の存在感がすごい。

彼女、最近特にああいう役が似合うようになってきた。このドラマでの小雪はちょっと怖い。

余貴美子のあばずれママ役もすさまじい。

この人、エリート官僚からこんな役までほんとによくやるわ、、、とその女優ぶりに感心する。

 

若手バイプレイヤーの毎熊克哉もいい役をもらえている。

笹野高史のタニマチがまた怖い。

浦沢直樹の漫画「MONSTER」の赤ん坊を思い出す。

小さいオッサンなんだけど、実は怖い人、、、、、

 

ずっと猿桜が主人公だが、兄弟子の猿谷の断髪式のシーンが終盤にある。

断髪式はいつ見ても泣けるシーンだ。

このドラマでも猿谷がどれだけ相撲に打ち込み、それを家族が支えて来たかが描かれている分、感情移入もしやすい。感動を呼ぶ名場面だった。

 

続編を観たい気もするが、これやるのにもう一回彼らは1年かけて体作らないといけないと思うと、ちょっとしんどいかも、、、だね。

なにせ、ドラマ中の取り組みのシーンなどは本当に迫力あって体張っている。

あれじゃあ、何回か撮影したら体壊れるのではないかと思えるほど。

 

だから、このドラマは今回で終わり、で良いと思う。

そのくらいすさまじく、そして気合のこもった一作だった。