「本気のしるし」の深田晃司監督作品。

矢野顕子の「LOVE LIFE」にインスパイアされて撮ったという。

 

木村文乃主演というので期待して観たのだけど、これは賛否別れる作品だと思った。

おそらくだが登場人物が抱える色々な背景を端折ってストーリーが進んでいくため、相当な想像力で観ていかないとついて行けない。

こういう作品は、人生経験、感受性ともに豊かな人でないと鑑賞に堪えられない。

 

深田監督と矢野顕子の対談で、深田監督のある発言でこの映画で描きたかったことが腑に落ちた。

監督はこの映画で家族ではなく、個人を描きたかった、自分や他人とどう向き合っていくかを描きたかったと言っていた。

 

その視点を知って観るとなるほどと思うし、そういう視点はMATTはとても共感するし好きなテーマだ。

「本気のしるし」の、あまりに共感できない主人公・浮世(演:土村芳)の行動も、一人の人間が他者との関わりや自らの中にある葛藤が根底にあり、それは誰しも少なからず持っているものだとわかれば、優しい目で見ることができる。

 

映画の中で神野三鈴演じる大沢二郎(永山絢斗)の母親が、妙子(木村文乃)に、「みんなで一緒に死ねるわけではない。一人で死ぬのが怖いのよ」というセリフがある。

誰かにいてほしい、誰かと一緒にいたい。一人ではなく、誰かと一緒にいることに意味がある。深田監督が描きたかったのは、そういうことなのだろう。

 

だからこの映画の登場人物は誰もが自己中心的な行動、言動で、なんとも共感できない部分があるのだろうけど、それは誰もが持っている、でも密かに隠している本当の気持ちなのだと思う。

 

木村文乃はお母さんを演じる年になったのね、、、、と時の経つのを恨めしく思ってしまう。

ちょっと心の強い女性を演じることが多い彼女、弱い役もたまには見てみたい。

 

山崎紘菜も気の強い役が多いが、この映画では少々控えめな女性を演じ、それもまたよかった。

木村文乃の元夫役の韓国人・パクシンジを演じた砂田アトム、あまり知らない役者さんだがセリフのある役も見てみたい。

「本気のしるし」で主演を張った森崎ウィンは声のみの出演。

 

この映画では団地のベランダから見下ろす俯瞰の絵が効果的に使われている。

ラストシーンで、木村文乃と永山絢斗が二人で出かけるシーンがある。

少し離れて歩く二人。

二人にとって本当に一緒にいたい相手は誰なのか、お互いに目を見て話せる日はまた来るのか。。。そんなことを考えさせられる終幕だった。