濱口竜介監督の作品が好きだ。

たぶん、古今東西いろんな監督の作品をたくさん、たくさん見てきた映画好きであれば、彼の作品を観ることを喜びに感じるだろう。玄人受けする監督さんだと思う。

 

「ドライブ・マイ・カー」「寝ても覚めても」、どちらも心に残る作品だったが、本作品は濱口作品らしく文学的であり、かつベルリン国際映画祭・銀熊賞を受賞した作品でありながら、比較的楽しめやすいのではないかと思う。

 

緻密な構成、カット割り、美しい映像、そして独特のセリフ回しなど濱口映画ではあるが、オムニバス形式の3つのドラマは、どれも物語に変化があり決して飽きさせない。

3話とも、ひょんな偶然から物語が動き出し、それぞれのお話で観客は自分なりの想像を膨らませられる。

なにせ登場人物が3話で8人しかいない。あとはこの人たちが語る物語の中の登場人物や、起こった事件、事象しかないから、観客は想像力をフルに働かせて思い思いに楽しむだけだ。

 

「魔法(よりもっと不確か)」

 

古川琴音、中島歩、玄理の3人による恋模様が描かれる。

芽衣子(古川)も和明(中島)も、自分のことを相手に伝えることが下手くそである。

似たもの同士なので上手くいかない。

結局二人はもう一歩を踏み出せないまま、二度目の別れを果たすことになる。

しかし、ラストシーンでの芽衣子の表情は明るい。大規模工事現場を写メに収めてほほ笑む芽衣子。スクラップアンドビルド。自分のせいで人が、自分が傷つき関係性が壊れていく。でもまた新たに作り直せばいい。前向きに生きていこうとする芽衣子に共感した。

 

「扉は開けたままで」

 

渋川清彦、森郁月、甲斐翔真。

渋川清彦と森郁月による中盤の教授室でのやり取りが圧巻だ。

特に瀬川(渋川)の小説のエロティックなシーンを、淡々と朗読する奈緒(森)の姿はあふれんばかりのエロスに満たされている。

この森郁月という女優さん、あまり出演作もなく知らなかったのだけどこの作品で大抜擢だったようだ。

 

森郁月。劇中では生にも性にも満たされない人生を送る人妻役を好演。

橋本マナミとか壇蜜もよいが、彼女らよりもそこはかとないエロスを感じさせる女優さん。

名監督によって女優は命を吹き込まれる、といういい例。

 

物語はまさかの思わぬ展開で、瀬川、奈緒の人生が暗転していくのだが、その後の二人がどうなっていくのか、は色々と想像が尽きない。

もう一人の主人公、甲斐翔真はあの伝説のドラマ(笑)「時空探偵おゆう 大江戸科学捜査」に出ていたらしい。。。。

 

「もう一度」

 

占部房子、河合青葉の二人のベテラン女優による静かな演技だけのストーリー。それだけに二人の息とセリフのやり取りだけが勝負という難しい作品。

しかし、この二人が本当にまるで今日初めて会ったかのような体でお互いの身の上を語っていくというナチュラルさ。

3作品のラストを飾るにふさわしい爽やかな一品となっている。

河合青葉は最近では「祈りのカルテ」で危うい母親役を好演していた。

 

それぞれのお話に共通する「自己肯定」と「他者とのつながり」を考えながら作品を観ていくと、自分の人生に置き換えて色々考えさせられる。

本作を見終えると、少し生きる力をもらえたなと感じるに違いない。

 

最後に、濱口作品であるのと、古川琴音が出ているということでセレクトしたのだが、森郁月という魅力的な女優さんに出会えたのは、タイトルにある通り「偶然」であったし、心に残る作品となった。