胸に突き刺さるようなヒューマンドラマを撮らせたら天下一品の李相日監督の2016年の作品。内容が非常に濃いと感じたのと、出演者がこれでもかという豪華俳優陣。

これは観るべし。

 

東京、千葉、沖縄の3つのストーリーが並行して進んでいく。

ある殺人事件が起き、逃走中の容疑者に似た人物が、それぞれのストーリーに出てくる人物たちとかかわりをもっていく。

そして、事件の報道を見てから、かかわりを持った人たちが容疑者に似ている、というだけでこれまでの信頼関係が少しずつ崩れ始めていく。。。。。

 

とまあ、簡単に書くとこんな感じのストーリーだが、3つの場所で同時並行で起こっているストーリーを破綻することなく上手く見せているので、観ている側もこの中の誰が容疑者なのだろう、信じるべきか疑うべきなのか、と登場人物にシンクロしてドラマに入り込むことができる。

 

豪華俳優陣もこの映画の見どころだ。

 

中でも、渡辺謙、宮崎あおい、妻夫木聡の3人は素晴らしい。

どう見ても漁師のおっちゃんにしか見えない渡辺謙、性にだらしない娘を演じる宮崎あおい、そしてエリートサラリーマンでゲイの妻夫木聡。

3人ともそういう人物にしか見えない役作り。

本当に実力のある役者さんが演じるとこうなる、というお手本。

 

これら実力派に加え、松山ケンイチ、綾野剛、森山未來、広瀬すずらが共演。

広瀬すずは当時まだ18歳だったと思うが、米兵にレイプされるシーンなどは本当にすさまじく、彼女の役者魂は本物だと感動。

 

共演の佐久本宝もデビューしたてで初々しい。

その他、ピエール瀧(役者復帰してもらいたい・・・)、三浦貴大、水澤紳吾(なんでもできる、このおじさん)と脇も固い。

 

池脇千鶴と高畑充希の使い方も贅沢過ぎる。

まだ高畑充希は最後の方で爪痕を残したからいいものの、池脇千鶴の役は別にちーちゃんじゃなくてもいいのに、、、、とある意味「怒り」を覚えてしまった・・・・笑

ま、でもこういういい役者さんがちょい役で出る、というのもファンにはうれしい限り。

 

高畑充希。2016年当時、TV・映画で売れ始めたころ。。。

 

タイトルの「怒り」とは、誰かに向けた怒りではなく、自分に対する怒り、ではないかと感じた。

自分の娘を信じられない親、愛する恋人を信じられない自分、大事に思っている人を救えなかった自分への信頼の欠如、など。。。。。

それらに対する怒りが、新たな怒りに連鎖し悲しむ人が生まれる。

苦しいが、他者を信頼することしかその怒りの連鎖を断ち切れない。

そんなメッセージがあると思う。

 

エンディングでは3つのストーリーで各々の結末を迎える。

千葉では、松山ケンイチを温かく迎え入れる渡辺謙と宮崎あおい。

互いに信頼を取り戻しハッピーエンド。

東京は、高畑充希から恋人の綾野剛が死んだことを告げられ、恋人を信じることができなかった絶望感に苛まれる妻夫木聡。

沖縄では、佐久本宝が自分のために森山未來を刺したことを知り、やり場のない怒りに震え海に向かって叫ぶ広瀬すず。

 

ミステリーの要素も持ちつつ、重厚な人間ドラマに仕上げられた一品。

豪華俳優陣が無駄になっておらず、イチオシの作品だ。

 

本作で好演の広瀬すず。

李相日監督作品はその後「流浪の月」にも出演。