丸山酒造(深谷市横瀬)が主催、風土飲食研究会が企画協力をする、深谷の旧き酒蔵を舞台に展開する深谷の地酒と地元食文化の魅力発信イベント、それが

【金大星蔵びらき】~深谷のみたべまつり~

です。

丸山酒造、丸山和崇蔵元兼杜氏はこのイベントで

「こどもから大人まで幅広く深谷に根付いた日本酒を含めた地元食文化の魅力を楽しみながら知ってもらいたい」

と語ります。

「地元食文化を子供たちに知ってもらう」

…この主旨に反対する親御さんはまずいないと思います。しかしその食文化の中には『酒』も入っています。そうなるとどうでしょうか。『酒』の一文字があるだけで、

「酒のイベントに子供を絡ませるなんてとんでもない!」

と怒る方もいらっしゃるはずです。たとえその酒が地元風土に根付いた食文化の一つであったとしてもです。

このたびの【金大星蔵びらき】開催に向けて、私はある方のことを思い出しました。

その方はかつてフェイスブック上で

「酒という食文化と子供を(酒は有害なものとして)安易に切り離そうとする動き」

にとても憂いていました。私はその想いに共感を覚え、先日その方に「子供にきちんと楽しく酒という食文化を伝えるためのお力を貸してほしい」とお願いしたところ快諾してくれました。

その方は酒匠(さかしょう)であり日本酒学講師でもある兵道俊美さん。

穏やかな文体の中に強い意志を感じる兵道さんの想いをここに記します。

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酒場は大人の社交場ー

この意見に関しては賛成です。というかそうあるべきだと思います。
今回の話題の発端は平成24年2月にある新聞で掲載された「小学生でも日本酒検定を?」という記事でした。
日本酒検定は2010年から日本酒サービス研究会(SSI)が主催している検定試験。
SSIには右田圭司、田崎真也、木村克己など日本の有名ソムリエが1990年に発足、日本酒の提供方法や温度帯、テイスティング、文化などを研究、現在は「利酒師」を認定する唯一の機関となっています。
利酒師はテイスティングの技量を要するので、協会では試飲の必要が無い、漢字さえ読めれば子供でも受験できる、という思いも込めて、日本酒検定を実施。
「漢字検定のように親子で机を並べて受検して、日本酒の素晴らしさを知って欲しい」と願ってました。その矢先の新聞記事。

その内容は、ある小学生の女の子が8歳の時、日本酒検定の5級に合格。
大きな日本酒のイベントを企画・運営している方が「日本酒検定は子供の飲酒を誘発する、子供に酒のことを教えるのは、免許がない人間に自動車を運転しろと言っているのと同じだ」と新聞で発言。
その方のブログでは「子供の検定合格を取り消せ」と書き込みをしていました。
一番傷つくのはこども。
SSIはこの事態を受けて、20歳以上の受験資格を設け、子供たちの受験を事実的に廃止としました。子供の合格認定は取り消さず、そのまま合格としています。

おそらく、この記事の背景には、日本酒のジャーナリスト達が動いているような気がします。
その子のお母さんは小料理屋さんを経営していて、時折試飲会会場などにもお子さんを連れて日本酒の「香り」をかがせ、そのお酒に合ったお料理を子供に作らせたりしていました。
その光景が「酒場は大人の社交場」と唱える人たちに不快感を与え、今回の記事に繋がったようです。
その子供の料理はすばらしく、「TVチャンピオン」の子供お料理選手権でもチャンピオンになり、「テレビドラフト会議」という番組にも出演、最近では親子でお料理本を出版したり、テレビにも出演しています。
そのことがお酒のジャーナリストとして活動している人たちには不愉快だったのかもしれません。これは憶測の範囲ですが、「子供をだしにつかって親が有名になろうとしている」という気持ちを感じ取りました。

私にとっては業界の中の騒動よりも、先に記した「免許が無い人間にー」の発言に唖然。
素晴らしい日本酒イベントの主催者がこんな偏った考え方をした人だったのかと、がっかりしました。
日本酒検定の件にこじつけてSSIを批判、フェイスブック上では話が「未成年の飲酒」という違った方向に発展していきました。

未成年の飲酒は法律で禁じられていること。許されるわけもなく、そんなことを議論するだけでもおかしいと感じます。
でも文化を継承することは違います。日本酒検定を受検することがどうして未成年の飲酒につながるのか、その考え方がよくわからず、戸惑いました。日本の発酵食品の素晴らしさを認め、どうして子供たちや若い世代に引き継いでいこうと考えないのか。
日本人はもう米人よりも納豆や味噌、しょうゆなど、発酵食品を口にしているので、放射能に対しての抗体を持っていると聞きます。
そうでなければ原爆をおとされた広島の復興はなかったと。

日本酒は「平行複発酵」という世界にも類を見ない発酵形態で醸し、ずっと今日まで引き継がれてきました。
日本酒は日本文化そのものだと思います。
それをどうして「アルコールだから」ということで切り捨て、若い世代に伝えることをしないのか。リスクがあるなら、回避する方法を取ればいいと思う


私は子供の頃、社会科見学でサントリービール武蔵野工場に行った記憶があります。
でもその頃はビールを飲みたいとは思わなかった。
子供たちは日本酒の酒蔵に行ったら日本酒を飲みたいと思うのか?
もし思うのだったら今、こんなにアルコールの低迷時期は迎えていなかったと思う。

若年層が日本酒だけでなく、アルコールを口にしなくなったことより、上司とのノミニケーションも少なくなり、殺伐とした社会になっているのではないだろうか?
コニュニケーションツールとしてのアルコールの良さを教えること、そして怖さを伝えること、飲酒運転がどうしていけないのか、急性アルコール中毒になるとどんな症状になるのか、飲みすぎると薬物のように体を壊してしまうこと、命を落としてしまうかもしれないこと、いいことも悪いことも教えていくことが大切だと思います。
蔵に行って子供たちは甘酒を是非飲んで欲しい。酒粕でなく麹から作った甘酒を。
ノンアルコール、ノンシュガー、でも滋養強壮成分が沢山入っていて、夏の季語にもなっている「甘酒」を。

ある蔵人さんにインタビューをしたことがあります。
その方は新潟県長岡市の朝日酒造さんに勤務するFさん。
朝日酒造は昭和60年から久保田を発売し、現在は4300石、全国で15位の生産量の蔵元です。
朝日酒造さんでは「いい水を確保するため」にホタルやもみじを育成し、良質な水を確保しています。「米作りは酒造り」「酒造りは人造り」の経営理念のもと、大勢の社員を教育しています。初夏には田植え、秋には稲刈り、そして冬前からの酒造り。
私が知る蔵元三の中でも本当に素晴らしい活動をしている蔵です。

朝日酒造さんの活動の中に「長岡市内の小学校にホタルの幼虫の水槽をプレゼントする」という活動があります。
子供たちはホタルを育成し、川に放ち、日本の自然の素晴らしさを知っていきます。
その中で「朝日酒造」という名前を知り、お祭りなどで、ほろ酔い気分になっている大人を見て「お酒ってどんな飲み物なのだろう?大人たちをこんなにいい気分にしてしまうお酒って何?」という興味を持ち始め、Fさんは朝日酒造への入社を決意、現在は杜氏候補生として頑張っています。
フランスにはワインの授業もあるそうです。それは文化だからです。
日本人は日本の文化を大事にしなさすぎだと感じます。

子供たちには酒だけでなく発酵食品のすばらしさ、メカニズムなどを継承していきたいと思います。そして成人した暁には、お酒の素晴らしさ、怖さを知りつつ大人の社交場である「酒場」にデビューしてもらいたいと心から願います。

SSI認定利酒師、酒匠、日本酒学講師 兵道 俊美

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…日本酒を取り巻く業界の事情、それに関わる人の思惑についてはよくわかりません。しかし

「食文化を子供にきちんと伝えること」

の大切さは、食に携わるものならば、食文化を大切にし、これからの日本の食を良くしようと願う人ならば当たり前のことだと思います。酒がらみの問題が起きたときに、苦々しく思うのはその酒を造っている本人でしょう。日本酒は正しき日本の食文化だと思うならば、しっかり伝えるべきなのです。

子供に日本酒の素晴らしさ、酒の正しい知識を教えることは、その子供を守ることに繋がります。

 前回の日記でも書きましたが、現在は食の作り手が正しいと信じることをしていては、まったく商売として成り立たない時代になってしまいました。食が正しいかどうかなど二の次、

「儲かる食べ物を沢山食べさせればよい」

という利益優先型の流れが主流になっているからです。しかしこの流れを作り出したのは、市場の変化によるものだけではないのです。

『作り手が目先の儲けに目がくらみ、しっかりと自分の作る食の正しさを伝えることを怠った』

からなのです。

 今回『金大星蔵びらき』の打ち合わせの中で、二人の方がある大手ファストフードチェーンのカリスマの言葉を引き合いに出しました。

『子供の味覚は3歳で決まる。それまでにウチの商品を食べさせればいい。ずっと固定客になる』

という言葉でした。そのファストフードの食べ物がどういう過程で作られたものか、まるでわからない。ブラックボックスの中から出てくる、食べ過ぎたときに健康面で何が起きるか、そんな映画が公開されるほど、悪い意味で注目されている、そんな食べ物が、です。そこに経営者としての卓越は見えますが、食の提供者としての正しさは微塵も感じられません。

『私たち食の提供者の信じる正しさを守るためにも、これからの人たちの健康につなげるためにも』

私たち食の提供者は、しっかりと食の正しさの軸である『風土に根付いた食文化』を伝えるべきなのです。

5月13日、深谷の旧き酒蔵を舞台に展開する酒と地元食文化の魅力発信イベント、

【金大星蔵びらき~深谷のみたべまつり~】

では、日本酒を愛するがゆえにきちんと子供にも伝えたい、という兵道さんの想いも組み込んでいきます。