わが郷土深谷市が輩出した偉人、「渋沢栄一」。近代日本資本主義の父ともいえる氏が没して今年で80年忌になります。そこで深谷市では11月11日~13日にかけて渋沢栄一没後80年記念事業と銘打って
『栄一フェス』
というイベント(祭?)を開催することになりました。
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今年の6月のこと、深谷市文化会館で行われた講演 の挨拶に立った深谷市長が
「今年は渋沢栄一翁に関連する事業をやります!」
と宣言しました。私は深谷市の産業振興を目的とする産学官連携プロジェクト【ゆめ☆たまご 】に所属していますが、実はその【ゆめ☆たまご】でも(栄一翁80年忌とは関係なく)「渋沢栄一の精神の表現」を考えていたものですから、今回の市長の宣言からある種の期待と不安が同時に湧き上がりました。「道徳ある経済活動(論語と算盤)」の重要性を説き実践した栄一翁、そのマインドが広く行き渡るのは大いに結構なことです。しかしその精神を市全体で行うイベントできちんと理解された上で行われるのだろうか…というのが不安でした。
『ヘタをすれば“栄一まんじゅう”が出てくるんじゃないか?』
私は『ゆめ☆たまご』のメンバーに何度もそう話しました。ここでいう“栄一まんじゅう”とは
『渋沢栄一翁の精神を考慮せず、栄一の看板だけをつかった悪い産物の象徴』
という意味です。渋沢栄一の名を掲げるなら重要なのは、そこに翁の理念が汲まれているかどうかです。ただ会社を沢山作ったから偉いというわけではありません。栄一翁が立派なのは
『公益を実現する手段としての経済活動』
を推進したことに他なりません。それは著書「論語と算盤」を読めば明白です。『ゆめ☆たまご』もその記念事業に(深谷市産業祭の枠で)参加し、その「論語と算盤」の教えをベースにして渋沢栄一精神の体現を進めてきました。
そして一昨日、新聞に【栄一フェス】という記念事業のチラシが折り込まれていました。チラシには『今こそ渋沢栄一スピリットを!』と大きく書かれていますが、正直ここにある全体像からは、【栄一フェス】がどこまで栄一翁の精神に則っているかは見えません。市内のあちらこちらで深谷市の各団体(もしくは市役所の各課)がイベント、祭を開催しますが、どれも毎年恒例の産業祭の出し物と変わらず。栄一翁ゆかりの地、施設のスタンプラリーも何か精神を伝えるものとしては違う気がします。唯一、中心市街地から遠く離れた渋沢栄一記念館において開催される県知事、市長も参加するシンポジウムの内容に期待がかかりますが、【栄一フェス】に来られたどれだけの人が注目するでしょうか。
なので私はこの【栄一フェス】のチラシを見たとき、
『ああ“栄一まんじゅう”がこんな形で、それも市によって生まれちゃったのかな』
と感じてしまいました。今はいざふたを開けたら、それが私の思い過ごしであることを祈るのみです。
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非常に長い前置きになってしまいましが、今回の【栄一フェス】において深谷市産学官連携プロジェクト『ゆめ☆たまご』では中仙道沿いにある「深谷シネマ 」のある敷地、建物を借りて渋沢栄一翁の精神を表現しようと試みます。『ゆめ☆たまご』は何をするのか?・・・・まずはこちらの『ゆめ☆たまご』が栄一翁に宛てた手紙に目を通していただけると、私たちの想いがご理解できるかと思います。
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2011年の「Re 青淵」
渋沢栄一没後80年、
「ゆめ☆たまご」が提案する80年後の産業像
渋沢栄一さま
私たちは「日本資本主義の父」と呼ばれるあなたの生まれたこの深谷に、こんにち生きていることを誇りに思います。百四十年ほど前、当時欧州に渡った日本人のうちあなただけた理解して持ち帰った「資本主義」は、その後のいいこと、よくないこと、さまざまな出来事を経て私たちの暮らしを豊かにしてくれました。
ところで、あなたが無くなってから80年のこの社会は、「道徳」と「経済」の合一を考えていたあなたの目にはどのように映るのでしょうか。便利、きれい、お得、いつでも、すぐに…。どれもみなありがたいことですが、同時に私たちの大事なものまで奪っていないでしょうか。
私たちの世の中から失われつつあるもの。それはあなたの拠りどころであった『論語』であり、あなたがその一節を「誠之堂(せいしどう)」にも用いた「中庸」、つまり「ちょうどよさ」ではないかと、この一年活動するなかで私たちは気づき始めています。
最初はよかれと始めたこと。それが使っているうちに当たり前になり、いつの間にか本来の目的を超えて、それがそれであるために私たち自身の毎日を息苦しいもの、つまらないものにしていないでしょうか。
あなたが没して八〇年、私たちが活動を始めてちょうど一年の今回、幕末から明治の何もなかった日本に新たな考えを吹き込んだあなたにならい、これからの産業、社会がどうあるべきかを、百四十年前のあなたへの返事として、これからの産業、社会がどうあるべきかを、深谷市産業祭を舞台に提案します。
そう、あなたの没後80年ですから、時間を下って80年後、2091年の私たちの社会。大事なものは大事で、いらないものはいらない。これは私たちが今の世の中でみる「ゆめ」です。
私たちは「ゆめ☆たまご」。あなたがおっしゃったといわれる「夢なかるべからず」。「ゆめ=理想」のないところに「幸福」はありません。
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これを書き記したのは『ゆめ☆たまご』メンバーの一人であり、教育者・ライターでもある同郷の友、小林真です。彼が企画会議のときにもってきたこの一枚の手紙が産業祭(栄一フェス)に向けた『ゆめ☆たまご』の指針となりました。ではこの理念をもとに、【栄一フェス】で『ゆめ☆たまご』が提案するものは何か。それは次回お知らせします。