今更いうまでもありませんが、私は深谷でもやし生産業を営むいわゆる
『もやし屋』
であります。この深谷のもやし屋は毎日自分の信じるもやしを育て、収穫して、お客様(もやしを食べる人、使う人)に届け、そのもやしの代金を戴くことで生計を立てています。
ここ数年はさらに
『もやし屋としてもやしを伝える』
という新たな使命も抱くようになりましたが、基本もやし屋としての身の丈はここまででありましょう。
自分の育てたもやし、そのもやしを最終的にどう扱うかはお客様に委ねられています。つまり育てたもやしの可能性を大きく広げるのは、やはりそれを食べる、使うお客様ではないかと思うのです。もやし屋がそこまででしゃばってはいけません。
特に料理を食べさせることを生業とする料理人の方々。彼らがもやしの可能性に響き、そして自らの経験・技術をもって創り上げたもやし料理には、もやし屋の身の丈をはるかに超えた、調理のプロである料理人ならではの感性でもやしを広げてくれます。私はそれこそが正しき食の広がりだと思うのです。
食を広げるのは儲かる儲からないだけで食を計る人ではない。
食を愛し、料理すること、それを食べる人こそが作り手以上に食を広げる資格があると私は信じています。
今までに私は何度も食を広げる料理人の底力を目の当たりにしました。
かつて広尾のフランス料理店で供された究極ともいえるもやし料理、
そしてお隣の本庄市にある居酒屋の人気メニュー、
・・・など、安さの代表である野菜のもやしをここまで美味しく仕上げ、その可能性を広げてくれるのかと、もやし屋として大きく感動させていただきました。そんな素晴らしき料理人に私は感謝をします。
そしてこれらの料理は
キチンと食べる人が納得する価格、いわゆる適正価格で出されていることも重要
なところです。
震災後の今でも緑豆もやしが小売価格『29円』で売られている現実。原料である緑豆の高騰、原油高による光熱費、物流費、石油関連製品である包装フィルム代の負担も増える中、小売価格『29円』・・・すなわち卸値が『13~19円』というもやしの価格はとても適正とはいえません。このたびの災害では食だけでない大規模集約型生産の弱点が露呈したにも関わらず、今でも大量生産ではなければ実現できない価格でもやしが流通するとなるとさらに地方の地域密着型の小さなもやし屋は経営が困難になるでしょう。当然私ども深谷のもやし屋もその中にいます。
今もやし業界に必要な行動は勇気を持って『適正価格』を打ち出すほかなりません。しかし、何も伝えずにただ価格を上げたら小売側から『便乗値上げ』という物語をつけられてしまいます。まずもやし屋は
もやしの本当の価値と比較して現在の価格は安すぎることを消費者(食べる人・使う人)に納得してもらうように努めなければならないのです。
そこで多くの人に食べさせるプロ、料理人たちに私は希望を繋げます。
もやしの可能性を食べさせて広げることは、価格だけでないもやしの価値を食べる人(消費者)に直に伝えることになり、そこで初めて正しい取引価格・・適正価格が成り立ちます。
作り手と消費者が認めた適正価格こそが最終的にはもやし産業だけでなく国内の食の提供者を守り、しいては日本の食を守ることになります。
日本のもやしが長年囚われている『低価格の呪縛』を解き放つのは、作り手であるもやし屋と消費者の相互理解でしかありません。
私は多くの料理人がさらにもやしに近づき、もやしを知り、その上でお店に出すものとして料理してくれることでもやしの可能性を一段と広げ、多くの人にその価値を響かせてくれることを期待しています。
次回よりもやしに響きもやしの可能性を広げんとする深谷の料理人と彼らがあみ出した斬新なもやし料理を紹介します。