作り手が自ら作るものの想いを伝えることは大切です。
作り手が語らねば、作り手と消費者の間に入っている人の独りよがりな勝手な解釈でその作ったものの価値をどんどん捻じ曲げてしまいます。そして最終的に残った物語は
『低価格』
だけとなってしまいます。もやしに限らず、今や多くの生産物が関わっているであろうこの悲劇をどこかで止めなくてはなりません。
じゃあ作り手は声を大にして自分の想いを叫べばいいのかといえば、そんなに簡単ではありません。
聴く側に作り手の想いを聴こうとする、そんな興味を抱かせなければなりません。つまり作り手は伝える前にどれだけ自分のところへ人を惹き付けられるかがポイントになります。
前回のブログで人が惹き付けられる最大の要素は、
『楽しさ・面白さ』
であると述べました。
私は2年前、地元幼稚園のPTA会長として保護者を連れて市内の別の幼稚園で行われたある実験を見学、そこから『楽しさ・面白さ』がいかに人を惹きつけるかを目の当たりにしました。そのときの驚き、感動を日記に残しておきました・・・・。
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2008年12月25日
『楽しさの渦』-ある市立幼稚園で行われている実践的な取り組みについて-
我が国の子供の体力低下、運動能力低下は危機的状況にあるという。そのため単純だが大事に至る怪我をする子供が増えてきている。例えば飛んできたボールを取ることが出来ず(取り方を知らず)に顔面に直撃して失明・・といったものだ。なぜこんな状況になってしまったか。その主なる原因は、幼児期における、
『体を使って遊ぶことの少なさ』
である・・・といった講演を聴いたのが、今年の夏のこと。講師はNHK教育の「からだであそぼ」を監修している中村和彦先生だ。
そしてその中村先生の指導の下、深谷市内のある市立幼稚園では、園児たちに体を使うことの楽しさを教えるべく、実践的な取り組み、
「体力向上の基礎を培う幼児期における実践活動」
が行われていた。これは先月、私も委員を務める幼稚園振興計画会議の席でその取り組みを知り、
「これはどういうものかなんとしても見てみたい」
と奮い立ち、同じく委員であるIさんがその幼稚園のPTA会長でもあったので、会議の後に、
「そちらの取り組みにとても興味があります。是非ともわが明戸幼稚園の親たちに見せてやりたいのですが」
とIさんに申し出たところ快く了承され、その後、先方の園長先生と連絡を取り、見学を許されることになった。私は明戸の園長、先生方の許可を得て(順番が逆だが・・)、保護者に文書を配布し、結果、私を含む7名の見学希望者が集まった。
そしてその当日、私たち見学希望者は車に乗り合わせて、○○幼稚園へ向かう。明戸の5倍の園児がいる○○幼稚園PTA会長のIさん、小学校校長でもある、I園長が快く迎えてくれ、職員室へ通され、お茶まで頂いてしまう。私たちはお客では無いのでしばし恐縮する・・・・。
ややあって、この日直接指導してくれる男の先生が到着する。パリッとしたジャージ姿で、いかにも若々しい体育の先生といった風貌だ。園児たちは天気も良い事もあってか、ほぼ全員が園庭に出て遊んでいる。さすがに100人も子供達がいるので壮観だが、この状況からどうやってまとめていくのか実に興味深い。
まず年中組(5歳児)から始めるようだ。年長組は一旦教室へ戻る。指導教師は、白線引きを使って、まず園庭に周囲30mくらいのトラックを描く。
指導の先生は「集まれー」の一言も言わない。園児達が遊んでいる中、黙々とトラックを描くと、持ち込んだ音楽プレイヤーのスイッチを入れて、楽しそうな音楽を流し、そして彼だけがまずそのトラックを走る・・・すると・・・
『彼につられて、どんどん園児達が後を追いかけてきて、まるでワタ飴の棒にワタがまきつくかのように、園児達が集まり、大きな渦となる』
先生が走るのをやめると、渦もおさまり、そして一言も命令しないのに、いつの間にか全園児が先生の下に集まっていた。
私は思わず感嘆する。こんな集め方があったのか。もし頭ごなしに
「集まれーっ」
といったらすべての園児たちが「喜んでしたがうとは思えない」。「いやいやながら」「行かないと怒られるから」といった気持ちで集まるのだろう。だが、今回の方法なら、
「これから何か楽しいことがあるのか?と興味を持たせ、子供たちを自主的に集まらせている」
子供の好奇心、その心理を巧みに活かしているわけだ。そしてその子供の「楽しそうなことがあるかもしれない」という好奇心が、大きなモチベーションとなってその後の取り組みに自然と入っていける。
私は多くの園児たちを自然に呼び込んだこのトラックは『楽しさの渦』だと思った。
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このあと様々な体力向上の取り組みが行われましたが、やはり本番の前に、無関心な子供たちを号令もかけずに一斉に引き寄せる、
『楽しさの渦』
は、何の投資もいらない、ちょっとしたアイディア一つで人の心理を活用した優れた手法だと思います。そしてもう一つの大きなポイントは、
『中心も楽しく渦を作っている』
ということです。中心がいやいややっているようでは楽しさの渦は生まれません。
深谷市産学官連携事業『ゆめ☆たまご』では、会場の一番奥のスペースで、さらに物販ができないという制約がありながらも、2日間で8000人近くの人を集めました。参加事業者みな楽しく自分の作るものを伝えていました。そこにはやはり『楽しさの渦』が生まれていたのだと思います。
人を惹きつけるためにまずは自ら『楽しさの渦』を作る。これは想いを伝えんがする作り手はみな意識すべきことだと思います。その渦は千差万別。こうしなければならない、という決まりはありません。楽しそうにお客さんと話していれば、それだけでも一つの渦は生まれますから。

