どんなに忙しくても、その日のピリオドを打ちに私は地元居酒屋『雷文』に足を運んでしまいます。


 駅から離れているのに、今や深谷市内でも屈指の人気店、雷文。


 高級な食材を使うわけでもなく、強いこだわりがあるわけでもない。あたり前のものをあたり前に調理して適正な価格で提供する店。なのにその居心地のよさに多くの人が惹きつけられてやまない、そんなお店です。


 私はカウンターで一人酒を飲みながら、なぜこの店に人が集まるのか、居心地が良いのかをしばしば考えます。


 以前はマスターから『こだわらないことにこだわる』という名言を戴きましたが、また最近興味深いマスターの想いを聞くことになりました。その日のマスターは妙に気持ちがこもってました。


 『俺はね、“自分が行きたくなるような店”をつくりたいんですよ。ですからみんなに好かれなくてもいいんです。別に誰から教わるわけじゃありません。多くの飲食店経営者が何かのセミナーで学んだことをそのまま店に反映しますが、あれはそうするのが(考える必要なくて)簡単ですから。そういう店はすぐわかります。どれもが同じで面白くないんですよ』


 あくまでも“自分”に忠実になる。それが個性として店を彩り、お客を呼びます。私はそのあり方に正しさを感じます。


考えてみれば深谷のもやし屋である私も同じようなものでした。


 大勢に逆らって、たとえお客が逃げていっても細いありのままのもやしを作り続け、さらに誰もコスト的に手を出さなかった県産在来大豆もやしに着手して・・・すべては


『自分の信じるもやし、自分が食べたいもやし』


を提供したかっただけのことです。


 なぜ雷文が居心地がよいのか、その理由の一つがわかりました。料理人として、食の提供者として、同じ方向を向いていたからです。

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