7月7日(水)の話です。


 この日、埼玉県農林総合研究センターの増山富美子さんと共に予め湯がいておいた大豆もやし、発芽大豆のサンプルを持って県庁内を回りました。私が最初に県産在来大豆もやしを作ることになったのは、今年の3月にこの増山さんがくれた一本の電話がきっかけでした。県産大豆普及に関わる人は沢山いらっしゃると思いますが、その中で増山さんは最も重要な人物の1人である、と私はこの数ヶ月の活動を通して感じています。


『私のやっていることは本来の仕事から離れているんだけど・・』


 そう呟きながらも、増山さんは精力的に各部署を回ります。まるで何かに突き動かされているような、そんな迫力があります。


 次に立ち寄ったのは、北与野駅前にある「埼玉県創業・ベンチャー支援センター」というところでした。こちらではすでに埼玉県産のウィスキーを広める、という企画が進行しており、そのウィスキーに合う県産の食材を使ったつまみはないか?ということで増山さんが協力をして、その話にもやし屋である私が飛び込んだ形になりました。


『これが埼玉県在来大豆で育てたもやしと“発芽大豆”です。まずは食べてみてください・・』


 一口食べたベンチャー支援センター担当のお三方は「これはうまい」と一様に驚きます。


 その大豆の旨味が舌に残っている状態から、「~のイベントで使えないだろうか」「さらに加工して勧めたらどうだろうか」と、話は先に進みます。


不思議なものです。


 食べ物を言葉だけで伝えようとすると、話すほうも聞くほうも場が膠着気味になります。ところがいざその食べ物を口に入れた途端、一気にスピードが増し、話の流れが淀みなく進むのです。この事実を私は数々のもやしを食べさせて語る試み・・・試食会、新聞・テレビの取材、もやしカフェといったイベントを通して学びました。


『やはり食べ物は食べないと伝わらないし、伝えられない』


ということです。そして・・・私たちは何でもすぐに答えを見つけようとしますが、こと食べ物に関してはこれといった決まった答えなどありません。あえて答えはどこかと言わせてもらえば、


『食べ物を食べた瞬間の自分の反応』


が、『その時の答え』であると思います。以前も書いたこと がありますが、食べ物は言葉や文字で学ぶものではありません。


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 そして午後5時を過ぎたところで私たちはこの日最後の目的地へ向かいます。大宮駅近くにあるFM放送局『NACK5』のスタジオです。実はこの日、ラジオの番組で増山さんが生出演されることになっていたのです。内容は『借金なし(県産大豆)普及に挑戦している方(増山さん)の紹介』ということです。


 オンエア前にディレクターとの最終打ち合わせがあり、増山さんと一緒にスタジオのバックヤードに入れていただきました。私は早速、サンプルを取り出して『まずは食べないと価値が伝わりません』と言葉を添えて、大豆もやしと発芽大豆をディレクターに食べていただきました。一口食べた彼の表情が変わります。その場で台本に修正が加えられ、本放送中にパーソナリティにも試食してもらうことが決まりました。


 そして本番が始まります。私はスタッフの許可証を首にぶら下げて外からガラス越しに放送を聴きます。サンプルを持った増山さんが、スタジオ内のパーソナリティや、スタッフに発芽大豆を食べさせるのをみて思わず


『やった!』


と声にしました。メインパーソナリティの『ケイザブロー』氏が


『いやぁコレメチャウマイですね!』


とオーバー気味に伝えますが、最初に食べた時の表情を見取った私はその言葉があながち演出だけではないことが分かります。それはサブパーソナリティの女性の反応にも見られました。一口食べて、うん、と頷くような姿、味に納得をした時の人間の行動です。


 その後は非常に放送内容もテンポ良く活気のあるものに感じられました。


※(許可をいただいて撮影しました)
まぼろしの「もやし」求めて・・・

 増山さんは、借金なしの名の由来、なぜ市場から姿を消したか、県産大豆の父とも言えるある人の活動、などを滑らかな口調で語ります。そして最後に突然、『そこにおられる飯塚さん・・・』と私のこと、県産大豆もやしのことも紹介してくださいました。


 増山さんの情熱、そして食べさせることで県産大豆もやしを伝えたこの日の活動は、いろんな意味で忘れられないものになりました。



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