賞味期限、消費期限という表示が一般化されたのはいつ頃からでしょうか。


 おそらく90年代前半ごろからだと記憶してます。それまではもやしの場合、日付を入れても製造月日くらいでありました。もっともこの製造月日にしても、野菜であるもやしの場合は非常に曖昧でありますが。


 普通スーパーに並んでいるもやしの場合、製造月日と消費期限が併記されています。もやしの収穫日(栽培枠から出して洗浄、包装、出荷した日)を製造月日として、それより+3日間。つまり1日に出荷したら、4日が消費期限となります。つまり出荷日を含めて丸4日間は消費期限内です。



 食品衛生法及びJAS法に基づく表示基準によると


消費期限とは、定められた方法により保存した場合において、腐敗、変敗その他の品質の劣化に伴い安全性を欠くこととなるおそれがないと認められる期限を示す年月日をいう」。


・・・となります。


 はっきり言いましょう。もやしに対して消費期限が丸4日間では長すぎです。安全性に関しては、それは静かに冷蔵ならば5日間でも食べられるとは思います。もちろん新しい時のもやしの風味はほとんど消えているでしょうけど。


 劣化に関しては、植物のもっとも成長が著しい時点を食べるもやしを、ムロ(栽培室)から引っ張り出してしまえば、なまじ成長力がある分、その時点から加速度的に鮮度は落ちて行きます。


 私の経験から、もやしはコールドチェーン(常に冷蔵状態で運ぶこと)が為されている状態で、出荷日+2日、つまり出荷した日を含めて3日間がいいところだと思います。もちろん鮮度による風味は格段と落ちている、という前提で、です。お店にあるもやしの製造日が前日ならば、翌日には食べ切るということです。


 実はこの製造日+3日間というもやしの消費期限ですが、これはもともと「もやし屋が決めた期限」ではない気がするのです。私のところも、当時取引していたスーパーの方針でした。


 かつてこんなことがありました。夏場になって、お店に並んでいる私のもやしを見た時に、


「これは消費期限+3日じゃ長すぎる・・・」


と判断し、翌日分から+2日に変更したところ、すぐスーパーからクレームが来てしまいました。


「お店が混乱するので、勝手に変えないで欲しい。すぐ戻して欲しい」


と。確かに勝手に変えてしまったのはまずかったかもしれませんが、その時私は


「ああ。なるほど。消費期限が長いほうがお店にとって都合がよいのだな。」


と思ったものです。お店としては


店もち(日持ち)するもやしの方が扱いやすいのだ


と悟った瞬間でありました。


 1980年代まで、そこそこ大きいスーパーがまだ一つの町に一つくらいだったとき、八百屋を含む個人の商店が元気だったとき、


もやしは日持ちしない野菜ということで、作る人、売る人、食べる人誰もが同じ認識をもっていました。


 私たちもやし屋も、早朝洗ったもやしを車で最長1時間半以内のお店に直接納めていれば十分に商売が成り立っていました。お客様も、早くお店に来れば確実に新しいもやしがあることを知っていたし、店側も翌日には余らせないように、私どもに発注をかけていました。つまり、当時は


もやしに消費期限などまったく必要がなかったのです。


・・・本当に劣化したのはもやしではなく、表示を見ないともやしですら判断できない私達の食の知識であり、食を見る目だとおもうのです。 


 現在市場において、変色しにくい緑豆太もやしが主流となっているのも、もやしの根が早く変色するので、根きり処理をしていつまでもきれいに見せよう、という業界の動きが定着しつつあるのも、誰もが日持ちの呪縛に囚われている産物かもしれません。


「日持ちする=正しい」という公式があてはまらないことは、少しでも食に近い人ならば誰でも知っていることです。


 私たちもやし屋は、日持ちの呪縛から逃れ、逆に「日持ちしない野菜を作り続ける事」に誇りを持つべきじゃないでしょうか。


※もやしの保存で「水を張ったタッパーにもやしを浮かべる」というのがあるようですが、私には疑問です。色は変わらないかもしれませんが、もやしがどんどん水を吸ってしまうからです。生鮮野菜の風味が落ちたものを持続させることが保存というのでしょうか。それと根を切っておくと色が変わらないので保存しやすい、という方法は、魚の目玉をあらかじめくり貫いておけば、変色が無く、いつまでも新鮮という頓珍漢な発想と変わらない気がします。



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