「農と食の展示商談会」がきっかけで、ブルドックソース(株) の営業の方、Kさんがわが社にお見えになりました。
考えてみれば不思議なものです。弊社は「飯塚商店」と一応「商店」を名乗ってますが、もやしを作って売るだけのもやし屋です。ソースを売買する問屋ではありません。そしてブルドック様にしたって、どうかんがえてももやしが必要な会社とは思えません。では何故今、もやし屋のところにソース会社の営業がいるか・・・・ということです。答えは一つです。互いに
「既存からの広がり、可能性」
を求めているという共通点があるからでしょう。
私は、Kさんに対し「このソースはどのくらいのロットで幾らなのか?」なんて野暮なことは聞きません。まず最初にしたことは、Kさんをもやしの栽培室(ムロ)へ連れて行き、ありのままのもやしを見せたことです。そしてそのブラックマッペもやしを500gほど取り出し、事務所のシンクで洗って、ザルにあけて水をきります。つまり「手洗いもやし」を用意しました。
「じゃ早速(ソースを)使ってみましょう」
と言って、Kさんが持ち込んでくれた「業務用塩焼きそばソース 」のキャップを開けます。事務所の机の上に設置したカセットコンロに火をつけ、テフロン加工のフライパンをのせ、程よくパンが加熱したところで、サラダ油を大さじはん分ほど垂らし、もやしをばっとのせて少し弱火にして蓋をします。蒸し焼きです。2分ほど経過して、蓋を開け、Kさんが勧める分量を参考に、「塩焼きそばソース」を加えて軽く混ぜ合わせて、火を止めて出来上がりです。そしてとり皿に盛って食べてみます。
・・・案の定です。この塩焼きそばソースは、分量さえ間違わなければ、食材の持ち味を活かす調味料でした。新鮮なもやし特有の野菜の風味を損なうことなく、もやしに欠けている、旨味、辛味、酸味を程よく補います。私の中ではこの時点で、
「もやしの試食販売に使う調味料」
として決定されました。
今まで何度か試食販売をして、最終的には、油のコク、塩、胡椒、さらに少しの醤油を垂らしてお客様にお出ししていました。この味付けならもやしの風味を損ねることがありませんが、やはり最初の一口でのインパクトに欠けます。広く多くのお客様に、もやしの美味さを印象付けさせるには、私はこのブルドック様の叡智を結集させた「塩焼きそばソース」の力を借りたほうが、モアベターではないかと感じました。
続いてこま切れにされた豚のばら肉を使ってみます。熱したフライパンに油を軽く垂らし、ばら肉を敷いて火を中火にします。ばら肉にじわじわと熱を通し途中裏返して両面を丁寧に焼きます。肉の脂が溶け出したのを見計らって、もやしをどさっと入れて、そしてもやしが肉の下になるようフライパンを返してから蓋をして、蒸し焼きにします。2分後、蓋をあけて「塩焼きそばソース」を適量注いで、軽く混ぜ合わせて出来上がり。
「豚ともやしの塩(焼きそばソース)炒め」
ですね。豚の脂がさらにもやしに染みて、これはもう万人受けのする想像通りの美味さでした。深谷ネギを入れてもいいかもしれませんね。
Kさんも、これらのもやし料理をつつきながら、「いろいろイメージがふくらみますね」と感心している様子です。
次にKさんが持ってきた定番の「ブルドック中濃ソース 」がもやしに合うか、同じ調理法で使ってみました。そしてその結果は、
「ソースの力が強いのでもやしの風味がほとんど消されて、ほとんどソース焼きそば味」
となってしまいました(笑)。なんでもいいというわけではないということですね。
Kさんはその他にもお薦めのちょっと変わった感じの「ブルドックフライソース 」というのを出してきました。一口舐めてみました。おお、トマトの酸味、旨味が上手に出ていていい按配です。私はもやしの旨味が一番活かせる調理法は蒸し焼きだと思ってます。新鮮なもやしであったら、蒸したもやしにこのフライソースを少しつけると実に美味しいでしょう。早速これも試食販売のときに使わせていただきましょう。
私はKさんに言いました。
「ウチはもやし屋なのでブルドックさんからソースを大量に買うことはできませんが、こうして来てくれたのだから、試食販売の時は、このソースたちを使い、そしてラベルが見えやすいように全面に押し出して置きますよ(笑)」
するとKさんも、
「ありがとうございます」とうれしそうです。
で、私も調子に乗って、
「試食の際に、お客様に『ブルドック様との共同研究の末にこのソースに決めた』と言っちゃっていいですか?」
と聞くと、Kさんも
「どうぞどうぞ。実際いま研究しましたから」
と快い返事です。さすが器が大きいですね。
その後、しばらく妻も含めてもやし業界、ソース業界の話で盛り上がります。もやし屋に来たブルドック様、やはり今は新たな展開を見据えての行動の一環であったということです。私も
「もしブルドックさんのところで研究か何かでもやしを使う必要がありましたら連絡を下さい。喜んで送りますよ」
と目先の商売を抜きに、「その先の可能性」を信じて申し出ました。
Kさんと過ごした時間は、久々に充実感溢れるものでした。閉塞感が漂う現在の市場でありますが、それを打ち破るには自分の力だけでは難しいでしょう。しかし他業種からの新しい風が吹けば、凝り固まった価値観も少しずつ変わっていくのかもしれません。