今回の原画展では、原画ともやしの展示だけでなく、もやしの試食と販売をしました。せっかくすぐ近くのもやし屋がやることですから、
近くのもやし屋でなければ出来ない試食
にしたいと考え、今回は栽培枠から出したばかりのもやしを軽く手ですすいだだけの
「手洗いブラックマッペもやし」
と現在では商品化が難しい
「発芽後3日目のもやし」
を提供しました。
「手洗いブラックマッペもやし」はまさに収穫したてのもやしをそのまま持ってきた、根っ子1本も折れてないものです。近い産地の新鮮なもやしがどれだけ力強い味を放つかを知っていただきたいと思いました。
「発芽後3日目のもやし」は、さらに豆の味が鮮烈で生命力と野趣溢れるもやしの滋味を知っていただければ、と思ったのです。
これらを少しの油と塩・コショウ・軽く醤油を振って蒸し焼きにしたものをお出ししました。みなさま豆の殻があろうと、根っこがあろうと気にせずよく食べていただき、単なるシャキシャキでは収まらない弾力のある噛みごたえと、内から滲み出るもやしの旨味に驚愕されていました。
そして多くの方が帰りがけにもやしをお求めになっていただいたのですが、飯塚商店ではブラック、緑豆の二種類を用意しましたが、当然と申しましょうか試食されたお客様は、
「さっき食べたのはどれ?」とお尋ねになり、そして
「圧倒的にブラックマッペもやし」
を選んで下さいました。今回1日分60袋ほど(ブラック40袋、緑豆20袋)用意したのですが早々にブラックマッペが品切れになり、自宅で待機していた妻に急いで補充に来させたくらいです。
「このもやしはどこに売っているの?」
と、何度尋ねられたことでしょうか。
不思議なものです。この原画展会場を出てすぐ近くにスーパーがありますが、そこのもやし売り場では
「圧倒的に緑豆もやしが並んでいる」
のにです。私の作るブラックマッペもやしは身が細く根っ子が長くて、豆と殻がついている・・・・といった最近の主流とかけ離れたもやし
であるのに、そのハンデをあっさりと乗り越えてしまうのです。
野菜そのものの味に裏打ちされたもやしと、その作り手の言葉がこれほどまでに威力を発揮するもの
かと実感しました。
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少し話は変わりますが、先週の22日に練馬の産地直売スーパー、
で店頭販売をした時もそうでした。売り場には同じ面積で、ブラックマッペ、緑豆の2種類を並べさせていただいているのですが、その違いをお客様から尋ねられた時、
「こちら(緑豆)が現在の主流であっさりと食べやすいもやし」
「こちら(ブラックマッペ)は、2~30年ほど前の主流だったもやしで、野菜の味が濃いもやし」
と説明すると、ほとんどの方が
「ブラックマッペもやし」
を購入していくのです。今はもしかしたら
「見た目よりも(野菜の)味が濃いほう」
が求められているのかもしれません。
生鮮野菜であるもやしの「見た目、日持ち」によって付加価値が得られるという伝説はもう終わりかけている
・・・のかもしれません。これは実際にお客様と相対して売った時に私がそう感じたことなのですが・・・・。
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この飯塚商店内では、もやしの成長のような、面白い成長物語もありました。
私やことなさんが来店されたお客様の説明係に回ったために、試食もやしの調理係は
「料理をほとんどしたことがない二人の若手スタッフ」
にゆだねられました。もっともたかがもやしの蒸し焼きですから、私は
「脂(ラード)を少しフライパンに敷いて、溶けたらもやしを一掴みほどいれて塩・コショーを軽めに振って、蓋をして2分半ほど蒸せばよい」
と簡単に説明しただけでした。最初は不安げに調理していた二人ですが、お客様の反応に喜び、段々前向きな変化が見えてきました。
まずお客様に調理したもやしをお出しした後、フライパンに残ったもやしを少しつまんで味を検証するようになりました。
つづいて
「脂はラードだけでなく、ごま油、オリーブオイルもいいのではないか」
「最後に醤油を垂らすともっと美味しいのではないか」
と、味の提案をするようになりました。私は彼らの前向きな意見を聞いたとき、
「これはもやしの発芽熱 と同じだ」
と感じました。私の指示したものに収まらない、そのまま放っておけば暴走しかねない若さ特有の前向きな情熱、まさにもやしの発芽熱そのものです。もやし屋である私はその発芽熱を活かさねばなりません。冷水を浴びせて成長する力を止めてはいけないのです。そして基本的に
「彼らの好きなようにやらせてみました」。
もちろんあまりにも味が暴走してもやしの良さを消してしまわぬよう、ときどき私も味をみて「もう少し塩気を薄く」くらいの管理をしました。もやしが自らの発芽熱で熱くなり過ぎない程度に散水するようなものです(笑)。
彼らはよほど仕事が楽しかったのか、原画展の5日間、ほとんど私が命令などすることも無く、自分で状況を読んで行動をしていました。もやしの蒸し焼きも、なるほどもやしとオリーブオイルも結構いけるんだな、ということも彼らの試みによって知りました。私はこの原画展は彼らにとっても貴重な財産になったと確信しています。成長することは、自然なことでもあり、楽しい事でもあります。その楽しさは一つの渦を作って回りもよい形で引き込みます。
成長力をいただく野菜が「もやし」です。もやし屋である私は
「もやしが楽しみながら成長するように育てる」
ことが、食を供するものの使命ではないかと思うのです。

