16日の午前のことです。熊谷市の消費者団体である
『くまがやくらしの会 』
の代表の方々が私どもの会社の視察に訪れました。
このくらしの会では、こういった視察も精力的に行っているようで、深谷のもやし屋である飯塚商店に来る前にも、栃木県の大手もやし会社の工場にも視察をされてました。
私はいつもどおりに会社を訪れる方々に、もやしのできるまでを順を追って説明しながら、豆やもやしに触れていただき、その香りや、ありのままの味も確かめていただきました。
皆様大変真摯な面持ちで私の言葉を噛み締めていただき、中国産の原料、またはエチレンの使用といった、あまり作り手としては言い難いことでも、きちんと聞いていただき、
「もやしとはどういうものなのか」
「(私から見た)もやしを巡る実情」
といった事柄も(理解とは別に)ご納得していただきました。特に中国産原料について、科学的データとは別に、戦後からずっと続いている産地、現地の輸出業者との信頼関係、日本ではとても出来ない多大な労力を経て日本に届くという原料、そしてそういった方々の力があってはじめて、もやしがあの低価格での安定供給が実現する・・・・そのような事情も聞いていただきました。
なので話している私もとても心地よくなり、
「食に近づく人に話すことは、作り手の幸せ」
と実感しました。
一通りの見学を終えて、事務所でもやしを試食している時に1人の方がこう呟きました。
「(以前視察に行った)○○さんのところとは全く別物ですね」
と。もやしは立派な野菜です。もやし屋が100件あれば、その思想、作り方も100通りあると思います。もちろんもやしの味も異なってくるわけですから、この方の話した、
「他社とは別物」
というのは、非常にもやしのあり方を言い当てた素晴らしい感想だと思いました。その言葉だけで私は皆様とお話した意義がありました。
作り手と消費者の代表ともいえる方々との話も弾み、ふと代表の方がこんなことを話しました。
「前にとある生産者団体の講演に行ったんです。そこでその壇上の方がよく話したのが
『こうなったのも消費者が悪い』
の一方的な言葉が、本当に悔しくて・・・」
この言葉を聞いて私もハッとしました。確かに、作り手側からすれば
『何も知らない消費者が悪い』
というのはとても簡単なことです。私もときどきそれに近いことを言ってました。しかしです。作り手は今まで消費者に近づこうとしたでしょうか。今まで作り手が近づこうとしたのは、消費者よりも、より自分の作ったものを高く、たくさん買ってくれる、その時の得意先の担当者ではなかったのでしょうか。
もちろん意地ばかり張って作ったものを買ってもらえなければ、生産者として成り立ちません。ただし、消費者に積極的に近づこうとしなかったのは事実です。逆に厄介者扱いして避けていた部分もあるのではないでしょうか。
ただ私は
消費者に近づくというのは、消費者の言うことを全て聞く、というのと別
だと思うのです。その食にもっとも近い作り手が、消費者とできるだけその食のことを伝え、時には誤解、偏見も解いてもらって消費者に近づいてもらうことが、正しい作り手と消費者の近づき方ではないでしょうか。
私の語るもやしの価値観が全てご理解されたとは思いませんが、皆様はその方向性には納得されたようで、来月のくらしの会で主催する料理教室で使う食材にもやしを使いたい、そして作り手の私にもお越し願いたいとのご依頼がありました。もちろん私は喜んで引き受けました。
私は来て頂いた皆様に、ありのままのもやしを見て、味わっていただき、話を聞いていただけたことで本当に充実した時間が過ごせました。この充実した気持ちを得るためなら、いくらでも動く気になれます。生産者とは本来、そういうものだと思いますし、生産者を幸福にさせるのはやはり消費者であり、生産者はできる限りその消費者のためを思って、食を作り提供せねばと感じるのです。