8月31日のブログ で、もやしと植物ホルモンであるエチレンとの密接な関係について記しました。
今回はもやしとの関係とは別に、植物の成長に大きく影響する物質「エチレン」についてお話します。
・植物の成長に関わるエチレンの発見
・・・・・最初にエチレンと植物のかかわりあいを見つけたのは、1901年、オーストリアの青年科学者、ネルジュボフです。彼は戸外と室内ではエンドウの芽生えに違いがあることに気付きます。戸外だと真っ直ぐ伸びるのに、どうして室内だと水平に伸びるのか・・と。そしてその原因は当時室内の照明に使われていたガス燈から漏れている物質の一つ、エチレンであることを突き止めました。実際にエチレンを取り除くことでエンドウは真っ直ぐに伸びたからです。
当時のヨーロッパの街角で灯っていたガス燈。まっさきに街路樹の葉が落ちたのは、そのガス燈の近くでした。
それより1世紀が過ぎ、今では多くのエチレンの植物への生理作用が明らかになり、その特性は農業分野でも活かされることになります。
・離層を形成するエチレン
・・・・・ガス燈の近くの葉が早く落ちたり、温室栽培しているバラが、石油ストーブの不完全燃焼により一夜で全部落葉する・・・これもエチレンの作用によるものです。
木の葉や花や実が落ちるときには、その植物には離脱するための組織、「離層」が形成されます。エチレンは植物の離層形成に大きく影響しています。
エチレンの離層形成作用を農業に活かすことですが、たとえばリンゴです。リンゴは一箇所に4~5個の実をつけます。開花し30日過ぎたころ、この中で中央の最も威勢のよい果実を残して摘果しますが大変な労力です。そこで優勢果を残し、劣勢果だけを落果させる手段としてエチレン発生を促す摘果剤 を少なめに散布すると、未熟果実のみが離層形成し落果します。
・果実の成熟を促進させるエチレン
果物の中には、メロンやバナナ、アボガド、ナシ、リンゴ、柿のように買ってきてすぐより、何日かおいたほうが熟して美味しくなるものがあります。 収穫後一定期間の追熟を待って食べる果物です。
これらの果物は収穫して間もない頃に、急激に異常な呼吸作用の高まりが起こります。この呼吸の増大をクリマクテリックと呼んでいます。果実はこのクリマテリックによって完全に熟成をします。そしてクリマクテリックが起きる引き金として、果実内ではエチレンの生成が高まっているのです。
たとえばバナナですが、収穫後7~8日後にエチレン生成の増大がみられ、その翌日にクリマクテリックが起きるという実験結果があります。
このことから人為的にエチレン処理をすることにより、果実の熟成を管理することができるのです。
日本へ送られてくるバナナは輸送に日数がかかるので成熟の遅い品種を早取りしたものが多く、港で荷揚げされたバナナは倉庫でエチレン処理されてから市場に出荷されます。エチレン処理されたバナナは呼吸作用が高まり果肉が熟してきます。
九州や四国といった西南暖地の温州みかんは果肉は熟しているのに、果皮の葉緑素が分解しないため、着色が遅れる・・・・・つまり青い果皮の色のままになります。そこでこのみかんの果皮の着色促進にエチレン処理がなされ、市場に出る頃には葉緑素が分解され果皮が黄色くなります。
西洋梨(ラ・フランス)においても、エチレン処理 することにより追熟期間の短縮の効果を上げています。
このようにエチレンはもやしだけでなく、他の農作物とも大きなかかわりを持っています。元来植物が自ら形成し、植物の一生を左右する働きをするホルモンですが、その特性を活かすことで人間が植物の生理を上手に管理している感があります。
ただエチレンについては様々な側面もありますので、また追ってお話したいと思います。
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今回のブログは
「植物の一生とエチレン」 (太田保夫著 東海大学出版会)
という1980年の古い本ですが、とても分かりやすい良書を参考にして書かせていただきました。植物の成長に大きな影響を与える魔法の物質、エチレンに興味のある方は是非ともお薦めします。