前回は「食の近さ」と「人との近さ」の密接な関係について書きました。これは私自身の経験から確信を得たものなのですが、今回はその確信に至った経緯をお話します。
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昨年度、私は長男の通う小規模幼稚園のPTA会長でありました。仕事として食に携わっている私はどうしても園行事に食を中心とした取り組みを入れたくて、
園児達が園庭で育てた野菜を使って、自分たちで調理して、親と一緒に食べるという
『園児たちの収穫祭』
を提案しました。そして先生方、保護者の方に受け入れてもらいました。この収穫祭、本来の意味は自分たちの手がけた近い野菜を自分たちで食べる喜びを知ってもらえれば、というものでした。
その年(20年度)は園児たちはサツマイモを育てていたので、
「じゃあサツマイモご飯でもやろうか」
と最初は簡単な献立しか予定になかったのですが、さすがにそれじゃ寂しいとなって、魚の切り身でも買ってそれもおかずにしようか、との話になってきたのですが、ある母親が
「魚買うんだったらMちゃん(園児の一人)のおじいちゃんに魚を釣ってもらったら?」
と言いました。そのMちゃんのおじいちゃんというのは新島に住んでいる方で大変な釣り名人でもあったからです。もちろんその母親は冗談半分で発言したのですが、しかしその一言は鮮烈に私に響いたのです。
『そうか!園児達が関わった食材(さつまいも)だけじゃ物足らない。園児たちの親、祖父母が関わっている食材も集めてみよう。それらは距離は遠くても園児たちにとっては身近な食材といえるはずだ。親や祖父母が自分の子、孫のために提供する食材が遠いはずはない』
と思い立ち、急きょ各保護者たちからの食材を募りました。もちろん新島の魚を含めてです。みなその取り組みに快諾してくれ、続々と心のこもった素晴らしい食材が集まってきました。新島のおじいちゃんなどは収穫祭の前日に魚が良い状態で届くようにと、逆算して沖に釣りに出てくれたのです。すべて自分らの子、孫への愛情のなせることです。
そして平成20年10月20日。集まった食材をもとに、地元の公民館の調理実習室を使って収穫祭が開かれました。私は収穫祭の献立と料理の説明、食材がどこから来たのかを、一枚の文書にまとめて参加した親に「あとでお子さんに読んであげてください」と言って配りました。これがその時の文書です。
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「明戸幼稚園収穫祭」の献立
1.明戸幼稚園の庭でとれた、さつまいもを使った「さつまいもご飯」
※ さつまいもご飯に使うもち米は広島県にいる、かいとくんのおじいちゃん、
おばあちゃんがつくったものです。
2. みそらちゃんのおじいちゃんが新島で釣った魚のバター焼き
※今回釣ってきてもらった魚は、「メジナ」「イサキ」「カンパチ」「シマアジ」です。どれもが刺身にしても美味しい高級なお魚です。3日前の金曜日の夜に釣ってもらって、冷蔵して送ってもらいました。
3. 新島の魚で作ったたたきの揚げ物
※ 「たたき」とは。新島で獲れたアオムロアジのすり身に調味料を加えて練りこんだものです。新島では伝統的にこのたたきを油で揚げてさつま揚げのようにしたり、味噌汁の具にして食べています。
4. 新島でとれたエビを茹でたものと、エビの頭でだしをとった味噌汁。
※ 味噌汁の具には、なみちゃんのうちとてるみちゃんのうちで作ったネギとニンジン、こうきくんのうちで作った大根が入っています。
5. はるなちゃんのうちで作ったきゅうりと、たいがくんのうちで作っているもやしのサラダ。
※ もやしは東南アジアのミャンマーという国で作られているブラックマッペという黒い豆を、明戸のたいがくんのうちでもやしとして育てられたものです。真っ暗で温かい部屋の中で、およそ1週間かけてもやしになります。
6. さつまいもを使った蒸しパン。
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自給率の低下が問題視されている中、ここにある食材はほとんど国産、それも子供達への大きな愛情のこめられた素晴らしい食材の数々です。
『食の近さとはこういうことではないでしょうか』
あの収穫祭から1年近く経ちますが、私は今でも時々この献立を見て勇気付けられます。この献立には『あるべき食の姿』、すべてが込められている気がするからです。