25日に東京ビッグサイト開かれていた、国内農産物の展示・商談会である
『アグリフードEXPO 2009』
を訪れました。会場内で開かれたシンポジウム、
『明日の農業を語る ~消費者ニーズに対応した展開~』
では3人のこれからの日本の農を背負うパネラーによる熱い話が聞けました。
今回はそのうちの1人。山梨県で農業生産法人「(株)サラダボウル」 を営む、田中進氏の印象に残った言葉を紹介します。田中氏はもともとは銀行員だったそうです。そして素人を20人で農業を始めたと言ってました。シンポジウムでは田中氏が
『素人ゆえに何もなかったことが強み』
『気楽さが若い人に人気となった』
と、話した言葉が印象に残りました。そして新しい人を受け入れ野菜の生産と共に人材育成にも力をいれているようです。
・・・・・若い人に人気の農業・・・・私の住む、埼玉県深谷市は全国でも有数の農産地です。ところが、私の住む深谷市明戸地区では農家の方はお年寄りばかり。たまに若い人が手伝うのを見ますが、それは普段会社員である息子が忙しい時に会社の休みを使って手伝っているに過ぎません。この明戸地区で私の知る若い専業農家は2人だけです。私の同級生は1人も農家を継いでいません。なぜでしょうか。いつもそこを考えてしまいます。
「収入の問題だけでしょうか。それとも他に若手が参入しにくい何かの要因があるのでしょうか」
若い人はそんなに収入に拘っているのでしょうか。私は逆だと思います。収入だけを見て嫌な仕事をガマンして出来る人は「若い精神」ではありません。先の不安ばかりにとらわれるのは“老いた”発想です。若さというのは貧乏でもやりたい事に突き進む力を持っていることです。夜の駅で歌っている人がいますよね。あれは「若さゆえに」できることだと思います。
若手が継がないのは、既存農家が古い概念ばかりを押し付けて「夢や希望」を与えないからではないでしょうか。やりたいという息子に対して、
「農家なんか儲からないからやるんじゃねぇ」
「嫁も来ないぞ」
「仕事はきついぞ。お前に出来るのか」
「お前のような素人ができるほど甘くない」
なんてことを言って前向きな気持ちをへし折っているのではないでしょうか。
逆に既成概念に夢を加えてやれば、たとえば
「きついこともあるが、いい事もある。やるだけやってみろ。分からなければ教えてやる。これからの日本は強い農家が絶対に必要になる。お前が日本を救ってやれ」
くらいのことを言えば、若い気持ちをつぶすことはないと思うのですが。
この田中氏のビジョンには、ご自身が素人ゆえに(お父様は農家のようですが)、そういった夢や希望をスポイルする古臭い価値観が薄かったから、ここまでの成功に繋がっていたのではないでしょうか。
確かにただの素人ではそうそう成功しないでしょう。田中氏の場合は、既存の農家にはない、自らのキャリアで培ったものを最大限活かしました。その点でも本当の素人ではありません。農家は素人でも、れっきとした職業人だったからです。
私も生まれてからもやしのことしか知らない井の中の蛙ですが、常に新鮮な気持ちを胸に、たとえば自分の井戸の水が澱んできたら、外へ出て他の井戸の水を持ってくるくらいの柔軟な発想をもったそんな蛙になりたいものです。田中氏の謙虚でありながら、それでも自信に支えられた「素人だからこそ」の言葉。大きく響きました。