ここのところの長く続いた梅雨空のため、野菜の生育が遅れて品不足になり、価格も上がってきているとニュース で伝えています。


 これが10年ほど前のことでしたら、一般消費者や野菜を扱う業者は、


「野菜が品薄で高いぞ。さあ大変だ。じゃあ高い野菜は使わずに 


他の野菜で代用しよう


となって、ここでもやしの出番がやってきます。まず最初に各地のもやし屋さんも注文が突然増えてにわかに忙しくなり、1週間後の出荷量をある程度見越して、もやしの栽培計画を変更します。栽培計画と言っても多めに豆(種子)を仕込むだけですが。


 そしてどうしても予定出荷量より注文量が多くなってもやしが足らない時は、それでもなるべく断らずに、


もやしの早出し


で急場を凌ぎます。早だしとは通常発芽より7~10日間後に出荷するのを、前倒して5、6日目のもやしを出荷することです。もちろんもやしの形も短くなるのですが、ここは栽培室内の空気の調整、つまり普段もやしを太くするために使っているエチレンの濃度を下げることによって、もやしを一時的に長く伸ばすこともできるのです。


そうやって伸ばした早だしのもやしだと、当然通常のものよりも細くなりますが、その措置も1週間で終わります。なぜなら注文が増えてから蒔いた種が1週間後にはもやしとなって完成するからです。


 野菜としてのもやしの利点はここにあります。他の野菜でしたら、種を蒔いてから1週間で出来上がりませんから。


 天候の影響を受けない野菜、もやしには旬がありませんが、あえて言わせてもらえばこのような天候不良による他の旬の野菜の品不足の時が、もっとももやしの価値が出る『もやしの旬』といえるでしょう。


 ただし・・・・・これは10年前までは・・・・です。


 皆さんもお気づきとは思いますが、90年以降から、円高基調と中国の開放政策によって次々と中国で作られた野菜が安価で輸入されるようになりました。店先に年間を通じて中国産野菜が並び、外食産業、中食(惣菜)産業に卸す野菜加工会社はコストダウンが図れるということで、率先して安定しない国産野菜より、輸入野菜を選びました。


 そして『もやしの旬』も終わりを告げました・・・・・。


 もやし屋としては、「もやしの旬」はとてもやりがいのある時期だっただけに大変寂しい気持ちですが、これも時代の流れであり、


不安定な国産よりも安定を外国産野菜を重視した国内の野菜に関わる会社や、国民が選んだ方向


なので仕方が無いのでしょう。


 と、いうのはこの流れを作ったのは中国からではなく、日本の商社、大手食品会社、流通会社だからです。彼らが中国の日本野菜生産に適した地域(例えば山東省)に『野菜基地』をつくり、中国の農民に日本向けの野菜作りを指導(栽培方法、農薬、肥料の散布など)して、輸出させているからです。その後不届きな業者が間違った農薬散布を行い、ホウレン草問題も起きましたが、ともかくこの流れをつくったのは、私達のニーズからなのです。


※参考文献  「食料植民地ニッポン」(小学館) 青沼陽一郎著