7月23日のことです。この日はお世話になっている野菜ソムリエの上原恭子 さんとお話をする機会があり、あらかたの話が終わった後、上原さんに紹介されて、中目黒の「N_1155 」というお店で食事をしてきました。
このお店、とても野菜に力を入れているようで、店先でも自家製の野菜を売っています。そこで前菜代わりに自家製味噌と一緒に出された葉菜「江戸菜」を見て驚きました。
この写真からは見え難いと思いますが、青々とした葉のところどころに直径1~2ミリほどの穴があいていました。これは間違いなく「虫食い穴」です。
野菜の産地に生きている私にとって、野菜の虫食い穴などは当たり前のことであり、なんの違和感もありません。ただ驚いたのは、これが都内のレストランで堂々と出されたことです。
今までしたら、野菜にこういう虫食い穴があるとお客様からの「クレームの対象」になったり、市場では等級を下げられてしまうはずです。生産者側も、そういったリスクを回避するために、虫がつかぬよう「それなりの対処」をするのが当たり前であったことでしょう。とても馬鹿馬鹿しいことですが、もう長い間、そういう価値観が当然になってしまって、それを変えていくのは非常に難しいことだと思っていました。
ところがこのお店ではいとも普通に「穴あき野菜」が出されて、そしてそれらの野菜は多くのお客様に支持をされているようなのです。このお店では「野菜と言うのはこういうものなのだ」という信念があるのでしょう。
上原さんは、この店のフロアマネージャーと、シェフを紹介してくださいました。お二人ともとてもやる気に満ちた若い方でした。ああ、なるほど、
「長い間定着していた、歪んだ価値観を断ち切れるのは、こうした若い人達なのかもしれない」
とその時思いました。若い人は古い価値観に縛られていないだけに、野菜のありのままを何の躊躇いも無く提供できるのでしょう。その清々しさに私は心打たれました。
古い価値観の中でもがいている私たち昔の生産者は、こうした悪い流れを断ち切ってしまう若き力に希望を見出し、応援していくことが務めなのだと思いました。そしてこれから私たちは決して彼らの障壁になってはいけないのです。