人見知りで、慎重派の息子(3歳)には怖いものが多い。初対面の人、着ぐるみ、サンタクロースにもおっかなびっくりなので、節分の鬼など狂気の沙汰だ。その恐怖心に働きかけ、「◯◯だと鬼が来るよ」などと言って行動させるべきではないという専門家の言葉は多い。しかし、おだてても、ゲーム感覚で誘ってみても、こんこんと説明したとて、食べない!寝ない!片付けない!脱がない!そんな我が子を前にすると、鬼の力を借りたくなるのである。
その鬼に勝るとも劣らず、彼が苦手としているものがある。それは、”えらいこっちゃ隊”。約束が守れなかったり、前出のような「ないない尽くし」の状態になると、「えらいこっちゃ~!」と玄関から踊り込んでくる団体という設定だ。私の故郷の”阿波踊り”のイメージなので、怖いどころかむしろ愉快だと思うのだが、息子は好ましくないらしい。
えらいこっちゃ隊と鬼は、息子にとってはどちらも招かれざる客でありほとんど差異はないようだが、私にとっては大きく異なる。鬼を呼ぶ私の顔は鬼そのものに違いないが、えらいこっちゃ隊を呼ぶ私は笑っているのである。「約束を守れないと、えらいこっちゃ隊が来るよ!」「ほら、え~らいこっちゃ!え~らいこっちゃ!」「あっ、外からヨイヨイヨイヨイッて聞こえてきた!」「もうすぐ踊り込んでくるよ!」などと騒ぎ立てていると、言うことを聞かない息子への苛立ちを飲み込むように、じわりじわりと笑いが込み上げてくる。なんとくだらない一人芝居。2人きりの家で、顔を赤くしてえらいこっちゃと連呼している親の姿こそ、えらい(大変な)ことである。
結局、私が笑ってしまうので息子は言うことを聞いてくれない。それでも、隊の力は大きい。私が恐れているのは子どもにトゲのある言葉をぶつけることと、荒々しい感情が生まれそうな自分だ。「えらいこっちゃ隊が来るよ!」は、その恐怖を笑いに変える秘策ともなっている。理想的な教育とはかけ離れているけれど、鬼になったり、踊り回ったりしているうちに2人の怖いものが減っていくといいなと思っている。