街を歩いたり、住宅地を通り過ぎる時に、素敵な庭で樹木、花を育てているところを見ると、とても幸せな気持ちになりますよね。自分たちの歯科医院も、このように花やグリーンで囲まれ、人を和ます空間にしたいと思い、開業当初は足しげくホームセンターや郊外の花苗店に足を運び、医院の前に花を植えるようにしていたものでした。
 
 その後念願の小さな花壇を設置し、涼しげでさわやかな印象の「風知草(ふうちそう)」を植栽。しかし、手間がかからないと言われた風知草が一年で枯れてしまい、次の年に再チャレンジするも、また枯らしてしまうという失態。
 

 診療が忙しくあまり手をかけられなくなり、そのまま初心を忘れ、花壇には花もなく季節が過ぎたある日のこと。長く通っていただいている患者さんから、「風知草がたくさんあるから、株分けしてあげる」とのお申し出を頂いたのです。さっそく株を分けて頂き、他の草花と土も購入して、休みの日に院長と二人でせっせと花壇に植えつけました。
 暑い日差しの中頑張っていると、「あら先生、素敵ねー」「草が枯れていたから心配してたのよ」「お水をあげようかと、となりの奥さんと話してたんです」など、声がかかるのにびっくり。風知草を分けてくれた方も、近所のみなさんも、この小さな花壇を心配してくれていたのです。(下写真の奥、綺麗な黄緑色がいただいた風知草です)
 
 風知草をくれる、と患者さんに言われるまで、花壇に花を植えることも忘れていたことに、本当に反省しました。忙しさは、心を亡くす、と書きます。玄関前には草花が咲き、笑い声が絶えない暖かい医院を作りたい、と思った開業当初の心を思い出しました。久しぶりに花が植えられた今は花壇に目を配り、水をあげています。1年草なので敬遠していた朝顔も植えてみました。
「あはあはと朝顔も咲き疲れたる(中村苑子)」
「風知草たちさわぎをる一日あり(岸田稚魚)」
 冒頭の俳句の日にちなんでみると、風知草や朝顔の名俳句も多いこと。それだけ植物と人は近いのだと思います。俳句をひねるのは難しくとも、心をなくさないよう、たくさん花が咲いてくれることを願い、夏の終わりにはタネを採るまで楽しみましょうか。「人老ゆる 朝顔も実と なりにけり(青邨)」(文 松浦直美)