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12日目


 悲願が叶った。


 夏場所の御嶽海戦で怪我して以降、それまで上り調子だった流れが一変し、望ましくない事が重なった。

 膝の回復が芳しくなく、様々なプレッシャーと焦りから、名古屋では関取の精神が大きく揺らぎ、別人のように憔悴していた。


 果たして立ち直れるのか、とても心配だった。


715日。

失意の名古屋から東京に戻った翌日、関取の口から最初に出た言葉は「かたちばかりで、中身が伴っていない大関でした」。

 どん底の精神状態から、自身の至らなかった面を見つめ直し、軌道修正して帰ってきた。


  振り返ってみれば、昨年10月から約1年の間に起きた出来事は半端なものではなかった。

 天変地異が起きたと言っても過言ではない。

過去を振り返る暇もなかった。


 彼自身は殆ど変わっていないが、彼を取り巻く周囲の環境が激変し、大人たちの事情と思惑に翻弄されることもあった。


 何を言われても書かれても、弁解したり訂正したりしない真っ直ぐな性分なので損をすることもある。

それでも本質が見える人には、分かってもらえるはず。


 覚悟をもって生きていても、まだ23歳。

try & errorを繰り返しながら成長する年齢。

 名古屋では一瞬自分を見失いかけ、それまで頑なに守ってきたルーティンを崩してしまったが、しかしそれでも、彼の芯は曲がることなく自力で這い上がってきた。

 

 埼玉の母校に篭り、監督さんや膝専門の先生の指導の元、リハビリに励みながら心を据え変えてきた。

 強くなることだけ考えて、純粋に体を追い込むことを楽しめたと言っている。

 外界との関わりを遮断し、一切の雑音を遮断しながら心を整えていたのだろう。

 

 この4ヶ月間は、色々な意味で彼を逞しく成長させた。

あの経験は二度と勘弁だと思うが、もう一つ上の番付に上がるために、必要な試練だったと思いたい。


 今日復帰を決めてくれたお陰で、515日に止まったままだった時計の針が、再び動きだした。


 大関になってから涙する日が多かったようだが、これからは笑う日が増えるはず。心根の優しい人たちに支えられて。


 来場所の大関 貴景勝は、夏場所のときの大関とは深みが違う。 幾多の障壁を乗り越えて、一段と靭くなった勇姿をファンの皆さんに観て頂けることが楽しみだ。


 老練な80歳と無邪気な10歳が共生する稀代の勝負師。


 この一年半、ずっとジェットコースターに乗っているスリルを味わっているが、これも嫌いじゃない。


 ともかく今は、怪我なく場所を終えてくれることを祈っている。