九州場所中日の取組後、自分が運転する車の後部座席から、貴信の話声が聴こえてくる。
「いや、付け人はほんまに一生懸命よくやってくれてるから。あれは俺のせいやから」
妙義龍との取組直前に、行事から回しを締め直すように促され、結び目を整えるのに時間を要した理由を彼のお父さんに説明していた。
食事のときにも、あの一件で頑張ってくれている付け人が、周りからせめられたら可哀想だと話していた。
人を人と思わないような人間が幅をきかせる魑魅魍魎とした世界で、決して人のせいにすることなく、相手を庇おうとする心意気と潔さが、貴信にはある。
電話で付き人と会話しているときの口調と言葉遣いからも、人を大切にする気持ちが伺える。
口数が少なく無愛想だと思われがちだが、礼儀正しくひょうきんでよく喋る。ひょうひょうしていて冷静。
取組後に掛かってくる電話の声と息遣いから、心身ともに充実して状態が良いことが伺える。
真摯に相撲と向き合い、日増しに重圧が大きくなるなかでも、平常と変わらず他者に気遣いできる器の大きな若者。
残り3日間、勝負の神様が彼に微笑んでくれることを祈る。