ずいぶん久しぶりのブログとなりました。

最近 日々の臨床でしばしば考えることがあります。それは患者さんの口腔を長い年月にわたって管理させてもらうという感覚です。われわれの仕事のフィールドは患者さんの口腔ですが、その本体である患者さん自身を長いスパンで診ていく姿勢が重要だと痛感しています。自分が歯科医師になりたての頃、もう30年以上前の頃には目の前の口腔しかも1本の歯を今どのように治療するかということに没頭していて、とてもその歯の5年先、10年先、20年先という視点で診る事やその本体である患者さんの将来像を描きながら今現在の口腔、歯周組織、歯列そして個々の歯をどのように治療していけば最善の結果を出せるかなどということを全く考えもしなかったなと反省しています。臨床経験が短かいだけでなく自身も若かったため、当時の中高年の患者さんの状況に思いをはせることができなかったためです。60歳を超えた現在、かって自身のおこなった処置を「あの時もっとこうしたらよかったのに」と思うことが実に多いです。

こうした点を息子をはじめとする次の世代の歯科医師へ確実に伝えていきたいと思っています。今月、来月と続く長い「講演行脚」の中で来週の仙台、盛岡のセミナーで早速挑戦してみたいと思います。

歯科大を卒業直後の歯科医にとって治療技術の習得はなかなか困難であり、それができるかどうかは、その後の研修の環境が重要であるということを前回のブログで記載しました。今回は臨床に携わる歯科医の治療技術レベルの見極めについて記載します。


最近の研修医や若手の歯科医をみていると、基本的な治療技術の習得に、おおむね5年間は必要であると感じております。そして習得した技術を実践してみて、その結果を確認するのにはやはり最低3年間は必要であると思います。つまり実際の臨床において実施した治療技術の結果を確認して問題点がないかどうか、もし問題点があればその原因は何であったのかを究明していくのに必要な期間が3年間は必要であるということです。そうすると臨床研修医としての1年間を含めると、基本的な治療の習得に必要な期間は最低でも9年間ということになります。つまり歯科医の治療技術レベルを推し量るのにまず臨床経験がおよそ10年間以上がのぞましいということになります。しかし同じ10年間といってもその歯科医がよい環境、すなわち優れた指導医のもとで、しっかりと研修を積み、独立後も自ら研修を継続していくことが必要です。患者さんから見たときに分かりにくいのはこの研修の程度を知ることでしょう。客観的な条件としては学会の専門医資格の有無や研修の履歴が考えられます。これはその歯科医のホームページなどの記載を見ればある程度分かるはずですし、学会のホームページに掲載されている専門医リストを調べると分かります。

日本歯周病学会 や 日本臨床歯周病学会 そして日本口腔インプラント学会などには患者さんの調べに応ずるための専門医リストがありますのでぜひこれらの学会のホームページを参照してみてください。

基本的な治療技術、特殊な治療技術、先進的な治療技術  私は一般臨床医にとっての治療技術の種類をこのように3種類に分けて考えています。


①基本的な治療技術

  日常的に実践される技術で 歯周治療、根管治療、歯牙の切削、印象採得(型取り)、充填(虫歯への詰め物)、外科処置(抜歯や切開など)、レントゲン診断などさまざまな分野に及んでいます。大学卒業後の約5年間で学ぶべき内容です。


②特殊な治療技術

  矯正治療などがここに含まれます。


③先進的な治療技術

  インプラント治療、マイクロスコープを使ってのさまざまないわゆる「最新の治療」といわれる技術です。


患者さんにとって意外に思われるかもしれませんが、こうした基本から応用までの治療技術は大学卒業時には、ほとんど習得できていないというのが現状です。つまり歯科医の中には、基本的な治療技術の習得も不十分な者も含まれている可能性があるのだということを患者さんも頭の片隅にとどめおいてほしいのです。

現在の歯科医学教育の結果では、歯科医療の臨床の場に出て初めて学ぶ内容が、実はとても多いのです。そのため、その歯科医がどのような環境で学んで来ているかというのは患者さんにとってとても重要になります。ただ残念なことに患者さんサイドからそれを見極めることはとても難しいと思われます。

次回には患者さんサイドからの歯科医の治療技術レベルの見極めについて記載いたします。