「あなたのためだけに歌います」

と誓ったコンサート。
彼女の友達のはからいもあり、5月31日に行われた。
逗子のさざなみホール、小さいけれどとても美しい。

若い時から病気がちではあったけれど、病の原因をとことん究明し、たたかってきた彼女が昨年、

とうとう余命宣告を受けた。
夜遅く電話をかけてくるが、逆に私を笑わせてくれる、楽しい話ばかり。

「私の最後の夢はね、お世話になっている逗子でトモ子さんのコンサートを開くこと。5月31日にホールが空いているから、歌ってくれない?」と彼女。

「あのね、私ひとり行ったって何も出来はしないわよ。ピアニストもスタッフも必要だし……」と私。

「それがいるんだよね。逗子に素晴らしいピアニストが。徳永洋明さん!」

その方はよく知っている。

昨年成城ホールでの私のコンサートも華麗なピアノを弾いてくださり、今大活躍をしている方だ。
出来ない理由を探しモタモタしている私に

「もう時間がないのよ。約束して!」

彼女の後ろには夢を叶えてあげようという、強力な応援団がいるらしい。

5月31日を迎えた。

「這ってでも、抱えられても、車椅子でも、絶対行くからね」

客席には来られなかった。
命が尽きてしまったのだ。

彼女の席がポツリひとつ空いている。

満員のお客様はほとんどの方が知らずにお集まりだ。

『哀しき天使』で登場すると、手拍子で迎えてくださり、『見上げてごらん夜の星を』ではみなさんも歌ってくださった。

永六輔さん直伝の手話を教え、『そして想い出』ではみなさんの手がひらひら舞う。
これは亡くなった彼女に"絶対やってね"と指示されたものだ。
『歌ある限り』最後の歌を歌い終わると、アンコール、アンコール。
思ってもみなかったブラボーの声が飛ぶ。

よかった。
彼女の夢がお客様のおかげで叶った。

美しいピアノの音色に包まれ、静かに彼女の話をした。

舞台には、天国から、と私に大きな花籠が届いていた。
シャレたことするじゃない?

そして私はまだ、お客様を喜ばせる力が残っていることを思い出させてもらいました。

ありがとう。
もう少し歌ってみるね。

私はあなたのようにありたいです。