大事なブローチが忽然と胸から消えた。

かなりの重さなのに、全く気が付かなかった。
冷たい汗が流れる。

今日の行動を思い出してみる。
車の乗降の時、それしかない。
外に走り出し、車道を見る。
ありとあらゆる所を血眼で探してみると、

「アッタ!」

側溝のところで草にまみれて潰れていた……
金と真珠の高価なものなのに……
この御姿では誰も拾わないわけだ。

車か自転車に轢かれたようで、ペッチャンコ!
変わり果てたブローチを手のひらにのせてみる。
これじゃ、スルメイカだ……
ブローチとしてはもう使えない。
金の高騰が叫ばれている。かなり重い。
売ろうか!
しかしこのブローチには想い出がある。

12年間続いたラジオの番組が終わった時、スタッフの方達からいただいた大事な品。
金か!
想い出か!

悪魔のささやきも聞こえ、心は千々に乱れる。
ジュエリー・デザイナーに電話する。
自分が創ったことは憶えていたが、型までは記憶していないとのこと。
そりゃそうだ。20数年は経っているのですもの。
早速スルメ状態の写真を送ったところ、

「サテ、これじゃ見当もつかないわ。トモ子さんが付けているところ送って」

生憎想い出のあるブローチだし重いので、あまり使用していなかった。
よりによって付けたら、あの事件。

スルメイカをお送りしたら、何ヶ月か経って見事に復元された。
前より一層輝いて見える。
お金はかかったが、想い出を大事にして良かった。

私に落っことされて、車に轢かれて、また戻ってきた、奇跡の品。
これから、勝負ブローチとして付けていくことにしよう。

イザ!