大通り、日傘を差してタクシーの空車待ちをしていた。
とても暑い日だった。
私を知っている、といった様子の年配の男性がニコニコと近づいて来た。
「日曜日はタクシーいないですからね。この間テレビで観ましたよ。私が呼んだタクシー、今来ますから乗ってください」
「いえ、大丈夫ですョ。ありがとうございます」
その間も空車のタクシーが走ってきたが、彼はブルブル汗をかき、おしゃべりに夢中だ。
「子どもの時から見てましたよ。ヤー、逢えるとはね。相変わらずお若い!」
スーッとタクシーが停まった。
「どうぞ。私のは、もう手配しましたので……」
お礼を言ってタクシーに乗り込むと、若い運転手さん、
「○○さんですか?」
「いえ、違います。あの方が譲ってくださったので……」
「あっ、それは困ります。○○さんのアプリで呼ばれたので料金があちらにつきます」
「アッ、そうなのね」
アプリとは……
無線ではなかったのだ (゜ロ゜;
「ちょっと待ってて!」
行き先の値段の検討はついている。2000円以内。大慌てでお財布をゴソゴソしているうちに、○○さんが呼んだもう1台のタクシーが走り出してしまった。
「ワァーどうしよう困ったナー。見ず知らずの方なのに……どうやってお返ししよう」
「マー、ラッキーってことでいいんじゃないんですか?鎌倉に行こうってわけじゃないんですからね」と、運転手さん。「いい人だね。神様みたいだ」
彼は感嘆しきり。
「2000円の神様かー」
でも、2000円は申し訳ない……
「馬券当たったのカナ?何かいいことあったんだね。きっと」
彼の想像力は果てしない。私は自分がちょっとだけ有名人だということを言いそびれてしまった。
なぜか、もう言えない……
全く私を知らないであろう彼にどう説明したらいいのだろう。
心はモヤモヤ悩ましい。2000円も重たい……
「今日はいい日でしたね」と、運転手さん。ニッコリ笑った私の心は微妙だった。
○○さん、すみません。
ありがとう。
ごちそうさまでした!(〃ノдノ)テレ