人と共に食事をするのは、あまり好きではない。
食べ物の好き嫌いはあるし、人と付き合うのも上手ではない。

永六輔さんと食事をすると、箸の上げ下ろしまでやかましかった。
お蕎麦を、私はズズッとすすれないのだが、何度もやり直しをさせられ

「外国人じゃないのだから。ズズッと、はいやり直し」

そのうち口と鼻のまわりがペチョペチョになる。

我が家のマナーは一旦口に入れた食べ物は絶対、音をたててはいけない。

お蕎麦をつゆに長く入れすぎると「つけすぎ!」
短いと「それじゃ味がしない!」

あとは箸の持ち方のご指導。
食べた気がしないし、味も何も緊張でわからない。
それがトラウマになったのかしら……人との食事は苦手だ。

2~3日前、紳士からお食事のお誘いがあった。
長いお知り合いだが、この方は私にダメ出しをしない。
ホテルの中の高級鉄板焼きのお店で待ち合わせ。
とても雰囲気が良い。
私のメニューには値段が書いていない。
ソムリエ、料理人のマナーも最高だ。
お肉も極上のランクで、私は焼き方がレア、お相手はミディアム。
あまり食べ物の感想を言わない私も

「まあ、美味しい。とろけそう」

お相手も、私が気に入ったのが嬉しいようだ。
別室で、コーヒー。

その時、ステッキを持っていらっしゃるのが目に入った。
柄(え)が銀で彫刻がほどこしてある。
わざわざ百貨店に出向き、仮縫いというか背丈、歩き方、重さなど採寸してくれフルオーダーだそうだ。
フーン。
ステッキのオートクチュール。
素敵な物を見せていただいた。

帰りがけに

「ちょっとトイレに……」

とおっしゃるのでご一緒する。
「Gentlemen」の表示を見ながら

「本当にこれに入れるのかな、といつも思うのですョ」

と、本物の紳士がのたまう。
ステッキをついているので扉が重そう。
私が両手で押してさしあげたが、かなりの重量だ。重い!

こんなに男性用は重いのか?
私のことだ。
「Ladies」の扉を押してみる。軽々と片手で開く。

「アラ、マア」

不平等じゃないかしら。
ジェントルマンだって年を取る。

私はこのホテルをよく使用するので提案してみようかしら?
でも改装したばかりだしな。

美味しいお肉と、久しぶりに紳士の美しい日本語を聞き、余は満足じゃ。

閑話休題。

この写真は2月9日(金)「山崎陽子の世界」の衣裳合わせ。
大須賀ひできさんと私、映画イースターパレードの中のカップル・オブ・スウェルズ(素敵なふたり)の一場面。
稽古は追い込みだけど、
果たして私はついてゆけるかしら?