新しい家に入り、何もかもルンルン気分の私。
カーテンをザアーッと開けると、木々やお庭が挨拶してくれるし、なかなか素敵。
喋るお風呂との会話も、もう慣れた。
女の人の声だが、渋い男性に変えてくれないかしら……
あちこち間違えたドアを開け、キャッと騒いだのも、もう終わり。

すっかり慣れてきたようだ。

70代の初めてのお引越しは、大成功!

しかしここには大きな落とし穴があった。

私は4歳くらいから自宅の1階に大きな稽古場があった。
バレエのレッスンはもちろん、芸能人の仕事が増えるとインタビューや写真の撮影のため、雑誌の記者、カメラマンが列を作って我が家に待っていた。
ニコッとするとパチッ。
雑誌の表紙やグラビアに私の写真が溢れ出すと、それは大仕事だった。

舞台の芝居、コンサート。
みなここで済ませた。
スタッフも俳優さんも私の仕事のスケジュールに合わせて集ってくださった。
今思うと、本当にすみません。
人気者ということで、何でも通ってしまっていた。
それに私には、子どもにとって一番大事な学校というものがあったので、みなさま許してくださったのでしょう。

私は一分一秒が忙しく、寝る暇もないくらいだった。
私が芸能人を続けていられたのは、お稽古場によるものがとても大きかったと思います。
現役の間は、絶対手放したくないと思っていたのですが…

稽古が終わり、スタッフも帰り、コンサート初日前夜。

「明日10時に迎えにあがります」と、マネージャー。

母がいなくなったこの家は、ひとりの私にはあまりにも広すぎた。
叫び出しそうな孤独に苛まれ、本気で夜逃げを考えた。
本番でお客様をにこやかに、パワフルにお迎えできない。
(逃げよう!)
何とか思いとどまりました。(^ ^)/セーフ

さて、このマンションはピアノは大丈夫なのですが、完全な防音ではない。
私ひとりくらいのレッスンは何とかなるが、人数が増えると流浪の民。
アチコチのお宅の稽古場やスタジオを借りている。
いやいや、あったものがなくなるのは、大変だ。

前は自宅だったので、忘れ物はへいちゃらだった。
今は譜面も台本もダンスシューズも、ちゃんと点検してゆく。

これも楽しい。

まったく仕事がなくなったらそんな心配もいらないが、有難いことにまだご要望がある。

無くなったものを惜しむより、
新しいものを探しましょう。

きっと新しい出逢いもあるでしょう。