この頃、私はコンサート・舞台を観まくっている。

母の自宅介護の間は、全く時間が取れず、失礼をしまくっていた方達の舞台を、可能な限り観に行っている。
みなさん、私の行かれない事情はご存知だったので、私の舞台は観に来てくださっていた。

まっ!御礼参りということか。
動機は不純だったかもしれないが、とても勉強になる。

一体この人はお客様に対して何を訴えたいのか?
テーマは何なのか?
自分の歌を聴かせたいのか、衣裳を見せたいのか?
自分が楽しみたいのか?

これが大事だ。
それさえふまえていれば概ね成功だ。
それがわかっていない人がとても多いのだ。

楽屋に花束を持って現れ、

素晴らしい!
素晴らしい!

と言ってくれる人の言葉は半分にお聞きなさい。
楽屋にまで行って「あなた酷かったわよ」という人はまずいない。

俳優の小沢昭一さんが、こんなことを言っていたっけ。

「俺は褒めて褒めまくり、何人の俳優を潰してきたことか……」

ウフフ。
この言葉は忘れない。
俳優も褒め言葉が大好物なのだから。

私は永六輔さんから、厳しく指導を受けてきた。
絶頂期の永さんは、一週間に一日くらいしか東京にいなかった。
その日にラジオの生放送、録音、雑誌のインタビューをこなし、また新しい話を仕入れに旅立っていった。
永さんに教えを乞うのは、時間的にも難しい。

私は永さんのマネージャーさんに、大まかなスケジュールを聞いた。
私も忙しかったが、永さんは殺人的スケジュールだった。
そして私は永さんの追っかけを決行した。
好き嫌いの激しい人だったから、講演前の1~2時間は原稿を書くと称して楽屋に閉じ籠ってしまう。

その時間を狙う!

私のコンサートの相談、曲目の並べ方、何を喋るか……
でも、永さんに面会許可は取っていない。
突然現れる。
事前に相談したら、逃げられる心配もある。
その日のご機嫌次第なのだ。
東京から金沢に飛んで行っても、私の顔など見たこともない素振りで、ソッポを向かれる。
その時は真っ直ぐ帰る。

私が勝手に教えを乞いに行ったのだから当然だ。
そんなことが何度あったろう。。。

でも、私に教えたい気分の時もある。

自分の舞台を見せながらじっくり教えてくれる時もある。

「次は私の好きな歌を歌います、など絶対言うな。喋ることがある時だけ喋れ」

昔はあったのだが、地方のお蕎麦屋さん・お風呂屋さんの2階には、小さなお座敷があった。
10人くらいのお客さんを集めて永さんは、自分のお喋りの稽古をしていた。
それを何回も重ねてから、ラジオ・舞台で披露していた。

「トモ子は歌・踊りの稽古は一生懸命するのに、なぜ喋りの稽古はしないんだ」

目の前で、話が練れて面白くなるのを何度も聞いた。

ある日、金沢から東京まで8時間の列車に乗った。
「トモ子のため、8時間の僕の時間をやる」とのことだったが……
これは両者クタクタになった。

8時間はとてつもなく長い。
永さんだけではない。
生徒の私でさえ、しばらくお顔を見たくなくなってしまった。

永さんが後年、私にこう言った。

「トモ子、今の若いヤツはどうして僕に話を聞きに来ないんだろう」

あんなにつれない顔をされたりしながら食らいついていく人がどこにいるんでしょう。

「トモ子は僕がどんなに尽くしてやっても感謝の心がない」と言っていたけど、私も大変でしたよ。⸜( ¯⌓¯ )⸝

永さん、本当にありがとうございました。

今になって、少しづつ永さんの教えを実行していますが、私も何年舞台に立っていられるでしょう。