素晴らしいショーを観た後の興奮で、2人の口の中は、今日の宴は「今半のすき焼き」と一致した。
すき焼き、すき焼き、と盛り上がったが、あいにくこの辺りにはない。

よし、ステーキだ。
絶対にここは肉でなければいけない。
老舗のステーキ屋に入った。

風格のあるウェイターが音もなく現れ

「お飲み物は?」

私の相手は間髪を入れず、生ビール!

彼は優雅に大ジョッキ、普通のグラスを選べるように出してくれる。
彼女はもちろん大ジョッキ!
私は白ワインをグラスで。
グラスワインなのに、ちゃんとワインメニューも出して好みのものを選んでくれる。

革張りのメニューが差し出され、私は150gのサーロインステーキ。
彼女は温かいロースト・ビーフとサラダをオーダーする。
完璧なサービス。

サテ、2人はショーの祝杯をあげようと、いざ乾杯!をしようとしたら、最悪のタイミングで小太りの青年がご登場。

「注文を繰り返します」と……

元ダンサーの彼女は

「今乾杯だからちょっと待ってね」

青年は流れをダメにしたことなど全く気付かず、素直に「ハイッ」。

乾杯の仕切り直し。
彼も注文を繰り返し、
まずはめでたしめでたし。

話は盛り上がるが、何か口寂しい。

「あのバゲットかライス付きますか?」と、彼女。

「付きません」と、青年。

「何かつまむものない?」

「トリのカラアゲがあります」と、自信たっぷり。

「あの……私達、この後ステーキだからカラアゲはちょっとね」と、私。

メニューを持ってきてもらい、サーモンのマリネを頼む。
2人でシェアしたい、と頼むと、青年は温かいお皿を二枚持ってきた。
「ムッ?」
サーモンのマリネは冷たいのじゃ。
冷たいサーモンをお皿で温めろってか!

彼女はビシッと言った。

「冷たいお皿をふたつ」

「ハイ!」

青年は爽やかだ。
自分のやっていることをわかっていない。

またまた、私達は話が盛り上がったが、ふと不安がよぎった。

「ねえ、私達お肉の焼き方訊かれた?」と、私。

「訊かれてない!」

「レアかミディアムかウェルダンか訊かれてないじゃない。なんてこと!」

私は肉の焼き方はうるさいのだ。
何十年前か、老舗で肉の焼き方を訊かれなかったことを未だに根に持っている。

隣に立っていたウェイトレスに

「ここは肉の焼き方を注文できないのですか?」

私の語気も荒かった。

「ヘェー?」

あっ、この人日本人じゃなかった……

「あっ、ごめんね。ミディアムとかレアとか、頼めないの?」

「頼めるよ」

騒ぎを聞きつけ、風格のあるウェイターが飛んできた。

「あのー、何か?」

「いえ、お肉の焼き方を訊かれなかったもので……」

その時の彼の顔が見物だった。
このアップはスティーヴ・マックイーンでぜひ。
諦めというか、哀しみというか。

ステーキはものすごく美味しかった!
焼き方も大満足。

でも値段は想像以上に高かった……
これサービス料も入っているのよね。

味は最高。
サービスは居酒屋さん。
コロナもあったしね。
仕方ないのよね……

帰りがけ、私達2人は

「青年、頑張れよ!」と、声をかけた。

「ハイッ」

と返事をした小太りの青年、何を頑張るか、わかったか!