「ストレスと上手に付き合う……心のダメージに強くなろう」

というインタビューの依頼を、雑誌から受けた。

現代社会の「ストレス」に焦点をあて、何人かの人に取材をしたい、という。

「松島さまは、お母様の自宅介護の経験、また長年に渡っての芸能界でお仕事を続けてこられた中で感じたストレス、これまでの人生の経験を通して思われていることを、お話ししていただきたい。それらを解消するためになさった事などなど……」

私にとって、最も苦手なテーマだ。
今もまだ、ストレスと上手に付き合う方法など、見つかっていない。
あったら私が教えて欲しい。

一番簡単な方法は取材を断わることだが、ストレスフルな人間にとってはその行為そのものがストレスになる……
「なんとかなるさ」と、引き受けてしまった。 (・_・;)

私の介護経験などちっぽけなことかも知れないが、私のやったことで効果があったことは、
悔しいこと・哀しいことは書いて書いて、書きなぐった。
大学ノートに書いた文字は大きいが、最初の頃のものは自分でも判読できない。
相当心が乱れていたに違いない。
でも、書いたことで心が晴れたことは確かだ。

テレビで「夫の介護はやりきりました。全く後悔はありません」と言い切った方がいたが、本当だろうか。
私は一生懸命やったけど、悔いがある。
もうちょっと母の認知症を早く見つけてあげていれば……
知識がなさすぎた。
なんの根拠もなく、母は絶対認知症にならない、と思い込んでいた。

世の中に「絶対」などというものはない。
心の準備だけはしておいた方がいいと思う。

母が認知症になった時、私はそのショックで体重が40kgから33kg……7kgも減ってしまい、自分がフラフラになってしまった。
老老介護の場合、私のようなことになると"病人が病人を介護する"ことになってしまう。
それでは共倒れになる。
知識だけでも得ていれば、いざという時役に立つ。

芸能界でのストレス解放については、小さい頃、母から『少女パレアナ』という本をもらった。
アメリカの作家、エレナ・ポーターの作品で、村岡花子さんが翻訳していた。

パレアナは、孤児院で育った女の子だ。
慰問袋の中からお人形が出て来るのをいつも願っていた。
でも、出てきたのは松葉杖……それからパレアナの遊びが始まる。
彼女が考え出したのは「喜びの遊び」。どんなことの中にも喜びを見つけなければならない。
でも、お題が難しければ難しいほど、遊びは冴えるのだ。
そしてパレアナは、ついに難題を克服する。

小さい頃から私も、こんな遊びに慣れていた。
芸能界は過酷な世界。子供にとって、無茶なことも理不尽なこともまかり通ることがある。それをグッと飲み込みニッコリ笑う。
大人の世界で生き抜くため、松葉杖を人形に変えるようなゲームを、私もずっとやってきた。

でも、ライオン、そして立て続けにヒョウに噛まれて瀕死の重傷を負ったあの時ばかりは、当然のことながら喜びを見つけるのは難しかった……
あっ!
そういえば誰かに言ったっけ。 
「後であのヒョウを毛皮のコートにして送ってね」って。
誰も笑わなかったけど。( ̄ヘ ̄)

私は、誰に頼まれたわけでもないのに、ホームレスの取材に日比谷公園に通ったことがある。
ホームレス歴50年、仲間からは"先生"と呼ばれる人と友達になった。
結核になったのにタバコをやめられない、ホームレスを私が咎めたら、先生は

「あのね、生きていることが体に悪いのよ」

この言葉、ユーモラスでしょ?

時々思い出しては、深く息をする。
この言葉、気楽な心持ちになるには、役に立ちますョ。

世の中にストレスがない人なんて、いないのではないかしら。
正面からぶつからず、少し体をずらせばいいのですよ。

私もこれでうまくいくこともあります。