昔、「中野ブラザーズ」の人気は熱狂的でした。

今だったら誰と比べたらいいでしょう。ジャニーズとも全く違う。BTSとも違う。
彼らは、歌わない、喋らない。
オーケストラをバックに、正確にタップのリズムを刻む。

特に進駐軍のキャンプでは、米兵が靴を踏み鳴らし、口笛を吹き、アンコール、アンコール。
彼らはタップシューズをぶら下げて日本中のキャンプをどれだけ回ったことでしょう。

私はなぜか5歳くらいの時、進駐軍のオーケストラをバックに、バレエを踊っていました。

夕方、新宿の西口に大きなバスが待っていて、毛布を掛けられ、母の膝で眠っているうちにキャンプに着きました。
司会者の小父さんに「トモー子・マツシマー」と呼び出され、大きな拍手が何よりのご馳走だった。

舞台には未来の大スターが溢れていた。
江利チエミ、伊東ゆかり、名前は違っていたがタップを踏んでいたちあきなおみ、弘田三枝子、中尾ミエ、などなど。
中野ブラザーズを真似して後の世界のトランぺッター日野皓正と弟がタップを踊り、服が汚かったのでバッチーブラザーズと呼ばれていた。

みんな中野ブラザーズに、憧れていたのです。

私は章ちゃんと、ながーいお友達だけど、まともな話をしたことがない。
章ちゃんは足も動くが、口も動く。出てくる言葉はタップの話題ばかり……

①に、尊敬しているのはフレッド・アステア
②に、ダニー・ケイ
③④が、中野章三と中野啓介

それ以外は認めない。

私はひとりっ子なので、二人の兄弟ゲンカが頭の上で始まると、身がすくむ。
今にも殴りかかろうかと思うと満面の笑みで舞台に踊り出す。
弟がちょっと前、お兄さんがちょっと後ろ、兄キがボクの踊りをチョロチョロ盗み見た、とまたダンスが終わると大ゲンカ。

いいコンビだった。

啓介さんは、お酒もタバコもバクチも女の人も大好き。
でも章三さんはタップだけ。
アンデルセンの童話『赤い靴』を思い出す。
たわむれに赤い靴を履いてしまった少女が、死ぬまで赤い靴に魅了されて踊り続ける。

章三さんは、踊り続けて75年。

"もしも選べるなら、舞台の上でまぶしいライトを浴びて死ねたら本望。
命の限りに踊り続ける。
それが私の生きた証……"


「章三はタップと結婚したんだもんな」

ぽつりと呟いたお兄ちゃん……
ちょっぴりさみしそうだったな。

11月5日(土)・11月6日(日)
東京芸術劇場シアターウエストで
中野ブラザーズ75周年記念公演

をいたします。

私は歌のゲストです。
今年、両足股関節の手術をしたので、踊りの方は大人しくしています。

今年85歳、章ちゃんのタップを、ぜひ観てください。

 

 

 

【出演情報】

 

■中野ブラザーズ 75周年記念公演 特設サイト

https://bit.ly/3SDiIfe