大会のオープニング・セレモニーの当日は生憎の小雨。
衣装をつけたまま病棟からスポーツホールまで走らなければならないので困っていると、コーチが大きな黒のビニール袋を持ってきた。ゴミ袋だ。底の部分と両脇に穴をあけ、

「コレ着なさい!」

確かにドレスは隠れて濡れないけれど、これじゃ真っ黒いてるてる坊主のお化けだ。珍妙な姿にまわりの選手達は指をさして笑い転げている。

あまりの面白さに選手達だけで鑑賞するのがもったいないのか、わざわざコーチを呼びに行く人もいる。「見世物じゃない!」こんなに便利なのに、ダァーレも真似しない。よっぽど変なのね。(-""-;
ああ、カメラ・クルーが居なくて良かったわ……

スポーツホールでは、続々と28ヵ国の選手団がプラカードを持って入場してくる。
これはオリンピックの開会式で見慣れた光景だが、違うのはみんなが車椅子に乗っていること。全員が整列した後、スカートをはいたスコットランドの兵隊さん達がバグパイプを演奏しながらパレード。

この日から10日間の闘いが始まる。

 

テーブルテニス、パワーリフティング、ラグビー、バスケットボール、水泳などなど、約4000人の選手達と会場を埋め尽くした観客の前で、車椅子ダンスのエキシビジョンが始まるのだ。


オランダ、ドイツ、ベルギー、ポーランド、ベラルーシ、日本の6ヵ国の代表選手達が、国名と名前を呼ばれる。しかし、日本語の発音があまりにヘンテコリンで、自分達が呼ばれたことに気付かず、ジャパーンで慌ててペコリ。
その順番に従ってワルツで華やかに登場し、続いてタンゴを踊った。
女性達は鮮やかな色とりどりのドレスをまとい、金髪に映えてとても美しい。まるで熱帯魚の共演のようだ。ジャイブ、サンバ、チャチャチャをメドレーで踊り続ける。

最後に、1組ずつが躍り出て得意な種目を披露しなければならない。

私達は、パソドブレとサンバを踊った。

パソドブレでは、シュンちゃんを闘牛場の牛に見立てて私が真っ赤なケープをさばき、最後には、シュンちゃんに止めを刺す、という振り付けだが、途中から観客の手拍子が始まり、大いに盛り上がる。
フィニッシュのアクロバティックな大技も見事に決まった。

私達の組に一番多く拍手が集まったのは……

多分、コーチの振り付けと、ヨーロッパ勢に対して唯一の東洋ペアということで、健闘を称えてくれたのだろう。

それと、車椅子に乗っているのは圧倒的に女性が多く、スタンディング・パートナー(健常者)は男性。
可憐な私(?)が男性の車椅子を引っ張りまわすんですものね。
それは拍手も多かろう。(´∇`)