楽しみにしてくださったみなさん、お待たせしました。
「車椅子ダンス」シリーズ、ようやく復活です。

<前回までのシリーズ>
■車椅子で Shall we dance ?
https://ameblo.jp/matsushima-tomoko/entry-12697128832.html
■車椅子で Shall we dance ? ~ part 2 ~
https://ameblo.jp/matsushima-tomoko/entry-12698665632.html
■車椅子で Shall we dance ? ~ part 3 ~
https://ameblo.jp/matsushima-tomoko/entry-12700866577.html


長沢俊一さんと私は、幕張メッセで行われた車椅子ダンス選手権大会の1ヶ月前からコンビを組んで特訓を受けた仲である。そんな2人がまさか優勝するなんて夢にも思わない出来事だった。

日本テレビの報道番組「NNNニュースプラス1」でその模様が放送されると、シュンちゃんの家の電話は携帯までが2時間以上も鳴り続け、その対応に大騒ぎだったとか。

初舞台で優勝!そして観客の拍手とスポットライトの閃光を味わったシュンちゃん。それ以来、彼の生き方は私の知らないところで大きく変化していったようだ。

ある日、四本先生のスタジオに社交ダンスのレッスンを受けに行くと、シュンちゃんがTシャツ姿で待ち構えていた。障がい者用自動車の販売を仕事としている彼は、昼間はいつもスーツでピシッと決めているのに……

「どうしたの?そんな格好して。今日はお休み?」

「僕、会社を辞めました」

「えー、何故?社長さんあんなにシュンちゃんの車椅子ダンスを応援していらしたのに……」

「色々考えましたけど、辞めることに決めました」

彼は車椅子ダンスに専念する道を選んだようだ。
なんと無謀な。テレビの栄光など一瞬のことの方が多いのに。私に相談してくれれば、一生懸命止めたのに……あの優勝が、シュンちゃんの一生を変えてしまったとは。

私の方は、幕張の大会に出場したことで一応の責任を果たしたつもりでいたが、彼の方には優勝したことで色々なところから踊りが観たいとか、指導して欲しいという話が舞い込んでくるようになったらしい。
沖縄の那覇市にお住まいの方からは

“テレビを見て感動しました。お二人のダンスを沖縄の仲間達にも広めたいので、ぜひ一緒に来てください”

と連絡がきたようだ。

「行きましょう」シュンちゃんは迷わない。

沖縄!私の脳裏にあの青い海が広がり、波の音も聞こえてくる。

(そうだわ、シュンちゃんを海の底に連れて行って美しいお魚たちを見せてあげたいなあ)

私がスキューバダイビングを始めたのは、ヒョウに咬まれた事故で頸椎を折り左半身の自由がきかなくなった時のことだった。

テレビでサリドマイドの青年がお魚のように自由に泳ぐのを観て、憧れたのがきっかけだった。シュンちゃんも海の中なら体が自由になって、お魚になれるかも知れない。

シュンちゃんと一緒に潜りたい!

私には10年近いダイビングのキャリアがある。
でも脊椎損傷で胸から下が完全に麻痺している人と一緒に潜るには、私が正確に中性浮力をキープしなければならない。私が海中で浮いたり沈んだりしては、彼に余分な負担をかけることになる。そうならないように急遽、以前指導してもらったことのあるインストラクターに事情を話してレッスンをお願いした。

私の受けた新たなレッスンをご説明すると ―

ダイビング用の巨大な円形プールには、1m~5mの深度を示す目盛りの帯がグルッと巻いてある。インストラクターからの指示で私が行ったトレーニングは、深度2mの水中を5周、それからさらに1m潜った深度3mの水中を5周する、というものだった。

1日目のレッスン。
1m深く潜るには、主に呼吸を調整して自分の体を沈める。深度5mのところも5周する。これを何回も何回も繰り返す。プールの中だから、見えるのはベージュのタイルだけ。目盛りの線を見ながらグルグル周っているうちに、目は回るし、自分が赤ちゃんの哺乳瓶の中に迷い込んだ掃除用のブラシみたいに思えてくる。疲れるし、第一面白くもなんともない。

2日目のレッスンは、水中でバケツを持って、前日と同じことを繰り返す。
水の抵抗が強く、足で蹴っても蹴っても前に進まない体が、重く苦しくて、何度も水を飲む。バケツを持つのは、自分で泳ぐ力のない人と一緒に泳ぐ時の訓練らしい。体力の消耗が激しく、目が回り、立ち上がれないほど疲れる。

頼まれたわけでもないのに何してるんだろうワタシ。あー、やっぱり無理なのかも……

と、弱音を吐いてしまうのだが、あの別世界のような海底の美しさの中で、お魚達と遊ぶシュンちゃんを想像すると、心が弾み力が湧いてくる。この2日間の特訓は、私には大変キツイものだったが、これでいくらか自信がついた。

いよいよ沖縄へ、ダイビング……もとい、車椅子ダンスを披露しに、いざ!