テレビ東京の「開運!なんでも鑑定団」から出演依頼がきた。

我が家は祖父の時代からここに住み、母も娘時代からいる土地だ。祖父は商社マンで外国を飛び回っていたのでかなりのお宝が眠っていたらしい。しょっちゅう骨董品屋さんが「ご主人様、そろそろお嫁に(骨董品を)お出しになりませんかね」と訪ねてきていたという。その頃、私はまだ生まれていない。


実家は戦火を免れたが、その家を私が新築した時、母は高価と思われるものを全部新しい家に運び込み、さあお引越しという前日の真夜中、丸焼けになってしまった。私達は古い離れに住んでいて、火事だ火事だ、の声で雨戸を開けたら消防士さん達が飛び込んできた。新しい家は真っ赤な火の海。現実とは思えず『風と共に去りぬ』の1シーンを思い出した。とてもきれいだった。


というわけで、大好きな「開運!なんでも鑑定団」にみていただくものはありません。すべて焼けてしまったのですから……

私はふと思いついた。100歳の母はいかがでしょう。見事なアンティーク。運ぶ途中でバラバラにならぬよう御用心。母に叱られるだろうなー。

 

(^-^;)

訪問医が来るたび、母が健康になっているのに驚かれる。肌のツヤもとても良いし、血圧も腸も快調。不整脈も心配するほどのことはないらしい。

「奥様、どこのお化粧品をお使いですか?」と、私がからかう。5年半ほど前、母が正気を失い暴れまくっていた時、母はずっと前から私より高価な化粧品を使っていた。友達から悪魔のささやき。「わかんないわよ、ビンだけ同じで中身替えちゃったら?」よし!クリームから化粧水から何からなにまで中身を全部取り替えた。母は首をかしげてたった一言。「トモ子ちゃん、何か変」アーばれちゃった。

レビー小体型認知症は凶暴になることや幻視(見えないものが見える)が多いそうだが、母はまさにピッタリの症状。

戦争中、中国の東北部にいた時、ソ連軍の戦車がドロドロ攻め込んで来た恐怖、兵隊たちが重いコートを着てブーツを履いていたこと、母は今でもその恐ろしさにふるえ、それらがはっきり見えるらしい。「トモ子、あそこにいる。逃げましょう」ブルブルふるえて、私に110番をかけることを命じる。でも私には何も見えない。電話をかけるふりをしたが、何とも私の声に迫力がない。母が「私に貸しなさい」と怒鳴る。電話はツーツーというだけ。ブン投げられてしまった。

あの母が今は(幻視だけど)何やら可愛らしいものが見えるらしい。

「トモ子、見て見て」と、指をさす。

「ママ、犬なの猫なの?」と、私。

「ほら、見えるでしょう」満面の微笑みで、「おいでおいで」

何やら頭をなでている。現実には見えないものが見えている。羨ましくなってくる。訪問医が「恐いものは見えるが可愛いものが見えるなど聞いたことがない。お母様は、よほど今の環境が良いのでしょうね……」

先日の夕方、我が家の近くに雷が二つ落ち、バケツをひっくり返したような雨音がした。母の部屋へ飛び込んでいくと、恐ろしそうに目の玉をクリクリしている。

「ママ、大丈夫?」と、私。

「私、泳いで逃げないと」と、ママ。

母は私が小さい時災害や地震があると、私の部屋に飛び込んできて、おぶって逃げようとしていた。だいぶ大きくなってからもね。

この辺りに川はないので、熱海の土石流をテレビで観たのでしょう。

「ハー、泳がれますか。マーちゃんと私がお助けしますから」

「アラ、ありがとう」

100歳になってもまだ生きる意欲があるのだな。私なら諦めるけど。そういえば母は水泳の選手だった……

三途の川をバタフライでお渡りになりますか?・゜゜・。・゜゜・。へ(* ´ー`)_