去る木曜日、突然電話があり、

「コロナ陽性者が当方の訪問者から2人出ました。お母様・トモ子様・御親戚の方は濃厚接触者には該当しませんが、ご希望なら、PCR検査を任意で受けることができます。費用は全額こちらが持ちます」

ワッ!きた!

お互いマスクをし、立ったまま若い2人と話しはしたが、あの2人が陽性者とは……母は99歳、私も親戚も高齢者だ。母を引き取ってくれる病院を見つけることは容易ではなさそうだ。

さあ、どうしよう。
もしも私が陽性だったら、母の面倒は誰がみてくれるのか。

全滅だ……

最悪なことばかり頭に浮かぶ。
翌日、現実が訪れる。

「入浴サービスですが、今日の入浴サービスを中止させていただきます」と、本日の担当者。

「何故ですか?」と、私。

「陽性者が2名訪問された、とケアマネージャーさんに聞きましたので……」

「でも、私達は濃厚接触者ではないと、保健所の方から聞きました。私の行動は自由と言われています。検査は任意です。母と私と親戚は、PCR検査はすぐ受けます」

「しかしこちらは訪問された方が陽性者と聞きますと、出動できなくて……」

「じゃ何が問題なのですか?保健所がOKと言っても駄目なんですか?」

こっちも必死だ。母はお風呂を楽しみにしているし、週2回の入浴は褥瘡(じょくそう)の予防にもなる。
主治医の先生に連絡をし、今の状況を説明する。

「ちょっと待ってください、問い合わせてみます」と、先生。

待っている時間の長いこと。元気な時の母に「あなたは度胸がない!」と言われたが、立ったり座ったり、胸がドキドキする。

時間通り入浴サービスの人が来てくれる。私は外出中だったが、親戚の者に「認識不足でした」と謝罪を述べたそうだ。助かった。

みんな初めてのことだから、不安なのね。

私達は素人ながら一生懸命コロナ対策をしている。
家の中でも、医療関係の人・マーちゃん(親戚)・私、母のそばにいる時は一日中マスクだ。息苦しさも、もう慣れた。99歳の母だけは、マスクなしで一日中ニコニコし、笑い声をあげることもある。

毎日何回も手を消毒しているので、指紋が薄くなったのか、パソコンを打つとよく滑る。おかげさまで冬によくひく風邪も今年はひかない。

母の体位交換、おむつ替え、体を拭く、食事の世話、入れ歯の洗浄など。要介護の母はだんだん体がこわばり、手も足も自由に動かないので、私には重労働なのだ。おむつが濡れた時には、母をベッドから隣の椅子に座らせ、パジャマ・おむつ・タオル・シートの全取り替え。私の力だけではとても無理になっている。自宅で看取ると腹を括ったくせに、まだ“施設”の文字がチラチラする。

扉を2つ開けて、母の部屋を訪問する。
ベッドに寝ている母の枕元に手乗り文鳥よろしく、肩に入れ歯がチョコナンと乗っている。あまりの可愛らしさにマーちゃんを呼んでくる。

「見て見て」

あのレディの母がなんとまあ。マーちゃん、転げて笑ってる。元気な時の母なら、そんな姿を見られたら憤然とするだろう。第一、認知症になるまで、母が総入れ歯だなんて全く知らなかった。

4月12日のコンサートも、コロナの影響により、正式に中止になる。

「もう何回目になるのかしら?」

春と秋に、私は成城ホールで年に2回、コンサートをしている。
もう10年になる。中止になるたび、態勢を立て直し準備に入るが、もう心が折れてしまいそう。何日も眠れぬ夜を過ごす。コロナの恐さがヒタヒタ迫ってくる。そのためではなかろうが、母の食事を一食忘れかけたことがある。

「ママごめんなさい、お腹すいた?」

「腹へった!」

とてつもない大きな声だった!

お正月から初めて大きな声で、私は笑った。

「ママ、そんな言葉いつ覚えたの?」

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【出演情報】



NHK(Eテレ)『ハートネットTV』

■1月26日(火)午後8時00分 〜 午後8時30分
https://www.nhk.or.jp/heart-net/program/heart-net/1636/
■1月27日(水)午後8時00分 〜 午後8時30分
https://www.nhk.or.jp/heart-net/program/heart-net/1637/

みなさま、ぜひご覧ください!