1月1日 ― 自宅介護をしているものにとって、お正月の三が日は魔の時だ。人手を借りるのが極めて難しい。
朝、お雑煮を作る。99歳の母親のために、お餅を賽の目に切る。結構力がいる。
お餅をパイシートに包み、電子レンジで温め、お湯を即席のお吸い物に注ぎ、
「ハイッ、出来上がり」
母がペッと吐き出した。見るからに不味そうだものね。わかるわかる。芸能界で少しは称賛を受けたことはあるけど、料理についてはお雑煮も満足に作れない不肖な娘、本当に申しわけない。涙がショボショボ溢れてくる。
朝8時半、看護師さん来訪。
いつもの人とは違い、緊急の助っ人として入ってくれる。彼女には3人のお子さんがいるのに……すみません。
浣腸をし、おむつを替え、身体をきれいに拭いてくれる。ありがとう。助かりました。
夕方、親戚のマーちゃんが来てくれる。
小柄だけどパワフル。独楽ネズミのように動き回り、母の面倒を手際よく見てくれる。近所に住み、SOSを発すると自転車で駆けつけてくれる。マーちゃんがいなければ、我が家の呼吸は止まってしまう。二人がかりでおむつを替える。年々母は体重が減っているのに、重く感じる。私達も年を取ったものね。
お夕飯はおかゆ、卵焼き、ローストビーフ、ほうれん草のおひたし。
母親が食事の途中眠りこけたり、アチコチ掻いて欲しいと甘えたり、1時間半ほどかかる。
2~3日前に微熱が出たので、このコロナ禍の中、救急車のお世話になったらご迷惑。人ひとりの命を預かるのには緊張を強いられる。
認知症の母と暮らして4年半、ワガママで自分の事しか考えなかった私がよく保ったものだ。夜中もちゃんと息をしているか何回も見まわり……私は今日何か食べたのかしら?思い出せない。
1月2日 ― 昨日の看護師さん、朝8時半に
「おはようございますッ」
元気に飛び込んで来てくれる。母とふたりっきりの緊張感がパッとほぐれる。
「トモ子さん、大分疲れているわね」
昨日の今日の訪問なので、私の体調がわかるのかしら?
「それナァニ?」
彼女の指さす先には私のホットカーラーが置いてある。
「頭洗ってドライヤーをかけた後、温めておいたホットカーラーで髪をクルクル巻くの」と、私。
「フーン。そんなもの私、見たことない」
彼女はストレートな髪の毛をゴムで後ろに束ね、クルッとオダンゴにしている。
3人の子育てと仕事で、オシャレなど構っている暇などなかったのだろう。でも私は母の介護をしてくれる彼女の勇姿に見とれてる。
プロってすごいなー。これから何人かの家をまわり、介護をして颯爽と3人の子ども達の待つ我が家へ帰る。3人の可愛らしい写真も見せてもらったことがある。ヨッ!カッコイイ!
今日も母は熱を出さなかった。ありがたい。
1月3日 ― 今日は午後からマーちゃんが来てくれるが、本日は運悪く日曜日。朝は誰も助っ人がない。
こんな時に限って何かが起こりそう……
お医者様、看護師さん、緊急の連絡先はきいてあるが、不安がよぎる。
たわむれに母のホッペタをツンツンつつくと、いつもニッコリ笑ってくれる。
「ママ、大丈夫よ。安心して」
私が自身に言い聞かせている言葉。
私が生まれてから母は女手ひとつで私を守り、芸能界の荒波を泳ぎ切ってくれた。今度は私の番、といっても、何とも頼りない……
三が日は何とか過ぎた。
これからはケアマネージャーさんのスケジュール通り、日曜を除いた毎日、看護師さん、ヘルパーさん、ひとりずつが訪問する。
週に2回のお風呂サービス、訪問医が月に2回。やっと一息つける。
このコロナ禍の中、私の友達の親たちは、施設に入る人、病院に入院する人、それぞれ面会が厳しいそうだ。私に全身で頼り切っている母の姿は何とも愛おしい。
外出から戻り手を消毒し、母の顔に触れると、ブルブルッと身震いする。
「チュベタイ!」
「ママ、世間の風は冷たいのよ」
これが老老介護の真髄かしら?
辛いことがあっても、母と半分ずつ背負ってきた。今はたったひとり。重すぎるなー。┐(´-`)┌