ライオンに咬まれ、ヒョウに咬まれ、死にもせず、麻痺もなく生きている人は世界でたったひとりなのだそうだ。

運がいいのか悪運が強いのか全くわからないが、貴重な人物であることは、確か?

日本で病院のベッドからやっと車椅子に乗れた頃、写真を見に来るように言われた。会議室に私のMRI、CTの首の画像がずらっと並べられていた。
担当医はその画像をみながら、

「松島さんは右の骨が折れている、と言ったけど、左ですョ」

「いいえ、右の骨がガリガリと砕ける音を右の耳で聞いたんですから、右です」

「左です」

「右です」

「左です」

かなりの言い合いが続いた。だって私はアフリカで右の骨が折れた、と聞いたから右にギプスをしソロリソロリ帰って来たのに。

「そんなわけないです」と、私。

でも結局日本人のお医者さんの勝ち。アフリカの担当医は私のレントゲンの写真を裏返しに見てたんだと。LとR、とちゃんと表記してあるじゃないか!本当にもう。首が後ろ前についたらどうする。

傷をみたらわかると思われるだろうが、牙が入る場合、上顎と下顎の真ん中に、私の首が入り、下顎に力がかかり、傷はピンホールのようにとても小さい。そして中身が砕かれるのだ。
写真誌にも週刊誌にも、傷を撮りたいとずいぶん追いかけ回されたが、実際に撮られたのは何故か文春、横から首だけ狙って撮られたのに気が付かなかった。タイトルは確か、

「オー痛い!」

すごい望遠レンズ。

傷が癒えるまで自宅療養していたら、私の家の屋根をブンブン回るヘリコプターの音がした。テレビをつけたら、若かりし頃の古舘󠄁伊知郎さんがヘリの中でガンガン怒鳴っている。

「松島トモ子さーん、御在宅ならベランダまで出て、手を振ってくださーい!松島さーん!」

今なら手を振る余裕もあるけど、そのころは芸能界復帰も危ぶまれていた。お正月番組だったかしら?古館さんもお仕事でやってらっしゃる……ごめんなさい。

「松島さんのお宅は咬まれるたびに大きくなりまーす」

と叫んでまた、ブルブル……他のタレントさんのお家に飛んで行かれた。

ようやく身体も回復し、私はまたアフリカ取材に出かけた。

アフリカの思い出の品が、今回の写真。

右2つが、ライオンの牙。
左上が、ライオンの爪。
そして最後は、ライオンの顔のブローチ。

エイズの取材でタンザニアのホテルにチェックインした時、私を指して、フロントが騒いでいる。「ナァニ?」と通訳に聞くと「あの女性は猛獣に襲われた人じゃない?」と噂しているらしい。新聞にも出たそうだ。アフリカでもライオンとヒョウに襲われるなんてないそうだ。

ニューヨークの学会でも、日本の担当医の先生が頸椎の模型を取り出し、第四頸椎粉砕骨折でヒョウに四番目をガブリと齧り取られて、14個のカケラに砕け散ったことを説明され、本人は無事だと紹介のうえ、加害者(ヒョウ)の写真入り……さぞ受けたことでしょう。この怪我はニューヨークではよく起こるらしい。拳銃の台尻(だいじり)で首を殴った時、このケースが起こり、百発百中で死ぬそうだ。

私は何故助かったのかしら……

セネガル行きのビザを申請した時、スタンプの脇に手書きの文字が書いてあった。

“今度はワニに気を付けて”

ご親切にありがとう。アフリカじゃ有名人ね、私。

日本で私の大好きなお店は恵比寿ガーデンプレイスタワーにある Lawry's The Prime Rib 。ローストビーフのお店だ。銀のワゴンケースの中には大きな肉の塊がゴロンと入っている。黒人の店員がワゴンケースを押して広い店内をサービスして回る。お客は肉の厚さに応じてカリフォルニアカット、ニューヨークカットなど、メニューを見てオーダーする。私の番になり注文しようと口を開きかけたら、店員が嬉しそうに

「オゥ!ライオンカットね!」(^-^)/

とのたまう。ビックリした私は

「エッ、ライオンカット?あなたどこから来たの?」

「セネガル!」

「フーン」( ̄- ̄) 

「東京に来たらライオンに咬まれた人に会いたかったョ。帰ったら親戚に自慢するよ」

「もう戻ってこなくていいわよ」

「すぐに帰ってくるョ、またライオンカット食べに来てね。ジャンボ!」

私のお皿には他の人よりひと際大きく肉が横たわっていた。キッチンから次々と私の顔を見ようと、首が出る。セネガル人がみんなにふれ回ったに違いない。

私にとって、あのライオンとヒョウの事件は何であったのだろう。それはゆっくり考察してみるとして、ライオンネタはこのくらい。

また次の話題をお楽しみに!